大会開幕前、日本代表に対しては批判と不安の声が大きかった。まず、大会直前の準備試合で連敗を喫したこと。とくに、ライバルの韓国に東アジア選手権に続く連敗をきっしたことが大きな理由だった。しかし、この韓国戦を見て、僕は「非常に良い内容の試合ができた。少なくとも、今年になって最高の試合ができた」と思った。

韓国は今年の1月にチームを指導させ、コートジボワールとロンドンで戦って2-0で勝利を収めるなど、日本よりはるかに準備が進んでいた。リーグが中断に入って招集されたばかりの日本代表が完敗を喫してもおかしくはない。そんな状況だった。そして、開始早々に朴智星(パク・チソン)に先制されてしまったのだが、その後、日本はしっかりと押し戻し、後半はむしろ押し気味の試合ができた。リスクを冒して攻めに出た後にカウンターを浴びて、PKを奪われてJ0-2の負けに終わったが、試合内容をしっかり見れば、(中村俊輔の惨憺たるプレーを除けば)決して悪い内容ではなかったのだ。

そして、その後、オーストリアに舞台を移してイングランド相手に善戦。コートジボワールには完敗を喫したが、これはスイスでの高地合宿が始まり疲れがたまった時期でのことで、それほど心配な状況ではなかった。ワールドカップのような短期決戦では、コンディショニングが重要になる。特に、「走ること」が重要な日本代表にとっては、コンディションが悪くては勝負ができるわけはない。そして、そのことは4年前の2006年大会で痛いほど思い知らされたはずだ。特に、今回は標高1500メートルの高地での試合、低地での試合があり、コンディションの重要性は、他の大会以上のものがある。

4年前に監督だったジーコは、コンディショニングなどたいして気にかけていなかった。シンガポール遠征の際には「暑熱対策のためにはサウナに入ればいい」と言っていた人物である。それに対して、現在の岡田監督はコンディションに細心の注意を払ってきた。Jリーグでの監督経験も豊富で、日本人選手のコンディショニングには知識も豊富だ。大会を前に不安もあった。最後の最後に、チーム作りの方針に大きな変更があったからだ。

まず、これまで中心選手として扱われていた中村俊輔のコンディションが回復せず、最終的に先発からはずされることになったことだ。もちろん、これは不可抗力のようなものであり、また岡田監督に責任があるわけでもない。だが、中村のコンディションが悪くなったのは、最近のことではない。それならば、なぜ、中村が不在となったときの準備をしてこなかったのか?そういう疑問は残った。さらに、岡田監督がそれまで重用してきた右サイドバックの内田篤人が使われなくなり、代わりに守備に強い今野泰幸が起用され、今野が負傷すると代役は駒野友一となった(そして、駒野は最終的にとんでもない形で主役の1人となってしまう……)。

もう一つは、岡田監督がチーム作りの最終局面になって阿部勇樹をアンカー(またはフォアリベロ)に置き、セントラルMFを3人に増やす4-3-3(または4-1-4-1)を採用したことだ。ヨーロッパやアフリカのチームと対戦するとき、ゴール前にロングボールを入れられて、そこで日本のストッパーとの1対1の勝負に持ち込まれるのが怖い。アジアでは絶対の存在である中澤佑二と闘莉王だが、相手が世界のトップクラスのFWでは2人だけでは止められない。そうであれば、ストッパー2人の前にアンカーを置くのは当然考えられる対策である。

だが、それならどうして、アジア予選突破以来1年間その形を試さなかったのか。なぜ、大会直前になって戦術を変更するのか?それも疑問だった。12年前のフランス・ワールドカップが終わって、岡田監督の退任記者会見で「何か心残りはないか?」と訊いたことがある。答えは「スリーバックにする決断をもう少し早くすればよかった」だった。ならば、大会直前の変更というのは、明らかに遅すぎる……。

さて、大会がはじまってみると、日本代表は2勝1敗で決勝トーナメントに進出。1回戦でも、パラグアイ相手に互角に渡り合って0-0の引き分け。PK戦で準々決勝進出こそならなかったが、それまでどんなに日本代表を批判していた人も認めざるを得ない大成功となった。成功の理由の1つは、もちろんコンディショニングの成功。日本代表は、見事に開幕戦に最高のコンディションで臨むことができた。コンディションだけではなく、ロングボールの正確性や、走る時間帯と走らない時間帯を見極めて戦い方を切り替えることなど、高地での戦い方もしっかり身に着けていた。事前準備の良さは、32チーム中でトップクラスだった。

そして、阿部をアンカーに置いた新システムも完全に機能。しっかりした守備で相手の攻撃を止め、カウンターで活路を見出す戦い方(ゲーム戦術)で、カメルーンとデンマークから勝利をもぎ取ったのだ。最終ラインの前にアンカーを置く形を本格的に準備したのは大会直前だった。だが、しかし、じつはこの形はこれまでにも何度か試みられていたことを忘れてはならない。

昨年の11月に南アフリカと戦ったときに、岡田監督は突然のように稲本潤一をアンカーに置くシステムを採用している。また、2010年に入ってからは東アジア選手権などで試合の途中から稲本をアンカーとして入れる選手交代が行われ、チームを立て直すことに成功していた。南アフリカのときは、「MFのメンバーが足りなかった」という理由だったし、東アジア選手権ではあくまでも試合途中からの変更だったが、このときに、岡田監督は「このシステムが(少し準備に時間を割けば)十分に機能する」と自信を持ったのではないか。

(この項つづく)

【後藤健生コラム】南アW杯を振り返る vol.1 〜スペイン代表 はこちらから

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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