ワールドカップ初の8強を目指した日本は、パラグアイ相手に真っ向勝負を挑んでPK負けという形で2010年の挑戦を終えた。

パラグアイは、伝統的に守備の強い国だ。一方の日本も、今大会では堅い守備からのカウンターやセットプレーからの得点で勝ち上がってきた。実際、試合が始まってみると、両チームの慎重さが目立った。相手のミスを拾って大久保がいきなシュートを放ったが、これがこの試合のテーマだった。自らのビルドアップで崩すことはできず、互いに相手のミスを狙って得たチャンスが多かったのだ

日本代表が前から激しいプレスをかけても、南米の選手には特有のキープ力があり、パラグアイがボールを失う場面はほとんどなかった(これが、日本が中南米のチームを苦手にしている理由だ)。だが、パラグアイの方にも余裕はなく、日本がプレスをかけると簡単に後ろに戻して逃げてしまう。パラグアイが引き気味なのは、日本を前におびき出そうとしたのかもしれない。

だが、今大会の日本代表は本当に大人だ。

簡単には相手の誘いに乗らないから、パラグアイも自らが仕掛けなければならなくなる。そして、ゲームは膠着状態が続く。20分を過ぎてパラグアイのキープの時間が長くなるが、その後再び日本が上回る時間もめぐってくる。一進一退の展開が続く。パラグアイはMFのカセレスが出場停止で、代役として入ったオルティゴサがボランチとして左右に大きくボールを展開する。日本の3人のMFは深い位置にいるオルティゴサのチェックに行けず、オルティゴサからのボールが脅威だったが、ロングボールが流れてゴールラインを割るシーンが多く、日本としては助かった。

その後、日本は遠藤を高い位置に上げて、このスペースに人を配置して、オルティゴサをチェックするとともに、攻撃の厚みも増そうとした。こうした膠着状態の間にも、ゴール前、中盤で激しいボールの奪い合いが展開される。結局、双方ともチャンスはありながら、最後までゴールを決めきれないまま、延長も終了してPK戦に突入してしまった。

特筆すべきは、パラグアイというハードな相手と戦った日本代表が、激しいぶつかり合いにも一歩も引かず、逃げることなく対等に闘い続けたことだ。グループステージのカメルーン戦では、うまく90分をマネージメントして無駄な動きをしない戦い方で勝点3をゲット。オランダ戦でも、先制ゴールを決められた後、攻めに行きながらも守りもきちんとケアして、失点を1にとどめるクレバーな戦いを繰り広げた。そして、世界のサッカー界の中でもハードなプレーで知られるパラグアイとも互角の「どつき合い」を演じたのだ。

日本では、こういうサッカーを「つまらない」と切り捨てる人が(「専門家」の中にも)いるようだ。

たしかに、華々しい個人技が見られるわけではない。スペクタキュラーなゴールがあるわけではない。だが、延々とボールの奪い合い演じ続けるのも立派なサッカーなのだ。いや、そもそも150年前にサッカーが生まれた頃、フットボールというのは、ボールの奪い合いが主体のゲームだったのだ。カメルーン戦やオランダ戦でのような、ゲームの流れを読みながら、自在に戦い方を変えたり、この日のパラグアイ戦のように激しいボールの奪い合いを繰り広げたり、つい先日までナイーブな大人しいサッカーしかできなかった日本代表とは思えないような戦い方だ。日本も、本当に大人のフットボールができるようになったものだ。

今回のワールドカップでの日本代表は、相手との力関係を考えて、相手の良さを消しながらしっかり守って、カウンターやセットプレーで点を取るという戦い方をした。いわば、ゲーム戦術を駆使して勝ち抜いた大会だった。試合のために戦略を立て、うまくそれを実践すれば、多少実力的に劣るチームであっても勝利を収めることができる。あるいは、コンディションが良ければ実力差はひっくり返せる。それが、サッカーというスポーツの面白さであり、ワールドカップのようなトーナメントの醍醐味である。もちろん「守りを固めてカウンター」といっても、それはそれなりの技術、戦術がなければ実行できるものではない。

だから、「日本代表のサッカーはつまらない」などという人は、サッカーの本質を履き違えているとしか思えない。

もちろん、将来的には、テクニック的にもフィジカル的にも相手を上回って、やりたいサッカーを貫いて、相手を圧倒して勝つようになってほしいものだ。だが、その課題は代表チームのスタッフの仕事ではない。各クラブや学校で育成に携わっている人たちの、そして、それを統括していく日本サッカー協会の仕事である。

8年後か、24年後か……。いつかは、ワールドカップで日本がそういう地位を占め、相手側がゲーム戦術を駆使して日本に挑んでくるような時代が来てほしいものである。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授