先週末のJ1で最大の注目カードは18日の浦和レッズ対川崎フロンターレ戦。勝った方が清水エスパルスを抜いて首位に立つということで両者とも意欲が高かった。が、結果は3-0という予想外の大差に終わった。

浦和は開始7分、谷口博之(川崎)のクリアボールをペナルティエリア手前で拾った細貝萌が鋭い左足のミドルシュートで先制。直後の8分には田中達也の電光石火の一撃で2-0とリードした。川崎は巻き返しを図るため後半から、あご骨折から戦線復帰したばかりの中村憲剛が登場。サイドを起点にチャンスを作るようになった。そして10分には鄭大世が強引突破でPKをゲット。これをレナチーニョが蹴ったが、GK山岸範宏に右手一本で止められてしまう。「たらればになってしまうけど、あのPKが入っていたら結果は違っていた」と憲剛は悔やむほどの惜しい場面だった。その後も川崎は攻め続けたが、ミスから浦和の堀之内聖に3点目を奪われ万事休す。浦和の前線からの守備意識の高さと攻守の切り替えの高さが際立つ一戦だった。

川崎のPK失敗も1つのターニングポイントではあったが、それ以上に大きな意味を持つのが田中達也の2点目だ。川崎が前がかりになったところで浦和はしっかりとボールを奪取。平川忠亮から阿部勇樹、田中達也へとつなげ、いったんエジミウソンへ。エジミウソンは寺田周平をひきつけてタメを作って田中達也にリターンパスを送る。この瞬間、彼は凄まじい速さでドリブルを仕掛け、ゴール前へ突進していく。田中達也のやや左前を走っていた柏木陽介も井川祐輔、森勇介の2人をひきつけスペースを作り、シュートコースを開けた。そして田中がやや距離のあるところから左足でゴール。このシュート技術の高さは文句のつけようがなかった。

彼のキレ、運動量、動き出しの速さは際立っている。フィンケ監督も「達也は南アフリカワールドカップに行くべき」と太鼓判を押していたが、誰が見ても今の彼なら代表入りしなければおかしいレベルだろう。同じFWの玉田圭司(名古屋)が両足首を痛め、大久保嘉人(神戸)も左ひざじん帯損傷に加えて鼻骨骨折と満身創痍だ。田中もいつケガをするか分からない怖さがあるものの、今の状態を維持できるのなら貴重な戦力になれるはず。欧州視察中の岡田武史監督もこの試合は見るべきだったのではないだろうか。

それだけ田中達也は光っていたが、川崎にしてみれば絶対に止めないといけない一撃だった。鄭大世はこんな感想を述べていた。

「あの2失点目はもっと体を張らないといけない。北朝鮮代表じゃありえないこと。試合にかける意気込みはみんなあったと思うし、問題なかったけど、最後のところでボールに行かないのは悪い癖だと思う。癖で味方の選手が背を向けてしまったのかな。サッカーは技術が大事だけど、それを凌駕する気持ちがないと戦えない。勝ちに対する執着心は絶対に必要。その一歩を超えるために突き詰めていかないとね。フェアプレーっていうけど、体を張るかどうかは違う。フロンターレがタイトルへの壁をどうしても破れないのも、そういうのが足りないからかもしれない」。

田中達也がエジミウソンからリターンパスをもらった瞬間、一歩遅れて彼を追いかけたのは、日本サッカー界で最も国際経験豊富なボランチ・稲本潤一だった。稲本はスピードのある田中を懸命につかまえようとしたが、シュートブロックまではいけなかった。が、足を出すなり、体を預けるなり、ギリギリのところでやれることはあったはずだ。柏木に引っ張られゴール前にいた井川も、田中のシュートコースに入って体を投げ出すことは可能だったのではないか、そういう「最後の一歩」がサッカーの勝敗を左右する。「北朝鮮代表選手なら何が何でも止めに行っていた」と鄭大世は思ったという。だからこそ、ギリギリの駆け引きとメンタルの重要性を改めて強調したのである。

「日本には日本のよさがあると思うし、俺も日本のサッカーで育ってきた。だけどやっぱり北朝鮮と比べるとそういう部分は足りないのかなと感じる。ワールドカップみたいな舞台に行ったら、気持ちがないと絶対に勝てない。俺は本番でポルトガル、ブラジル、コートジボワールっていう強豪と戦うんだから、余計に高い意識を持ってやらないとね」と彼は目を輝かせた。

鄭大世が指摘した「闘争心」と「最後の寄せ」「体を張る守り」というのは、確かに今の日本サッカー界に不足している部分だ。ワールドカップで対戦する相手と1対1で真正面からぶつかっても勝てないのだから、そういう細かいところを突き詰めていくしかない。南ア本大会までの時間は短いが、意識を高めることはできるはず。特に田中達也にやられた稲本にはシュートを打たせないところまでやりきってもらいたい。

この敗戦を教訓にすることが川崎フロンターレ、そして日本サッカーのレベルアップにつながるのではないだろうか。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

お知らせ

◆浦和レッズvs.川崎フロンターレ
4月21日(水)22:00 J sports 1
4月22日(木)13:00 J sports 1
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