第2節まで終わったJリーグ。2連勝のチームがたったの2つ。一方で、勝点ゼロのチームもなくなった。予想通り、ヨーロッパのいわゆる3大リーグなどとは違って民主的なJリーグらしい大混戦のスタートとなった。
そんな中で、面白い存在が、木村和司監督が就任した横浜F・マリノスである。
開幕戦は、後半ロスタイムにFC東京のカウンターを浴びて、平山のゴールで0−1と敗れたものの、内容は90分間にわたってやや優勢の試合だったし、中村俊輔復帰戦となった第2節では湘南ベルマーレに3−0の完勝を飾った。
その湘南戦後の記者会見では、木村和司監督に「走ることの重要性」についての質問が出て、木村監督が「サッカーは走らなきゃいけない」とやったので、会見場は大爆笑に包まれた。これは、最近サッカーを見始めた人たちには、説明が必要かもしれない。
木村和司という天才選手は、とにかく走らなかったのだ。MF、背番号10のイメージがある木村和司だが、明治大学の学生で、最初に日本代表に入った頃の木村和司は右のウイングだった。「ウイングなのだから走るのだろう」と思うが、これがさっぱり走らなかったのだ。
とにかく、ドリブルのテクニックはすごかった。同じ広島県工の先輩である金田喜稔とともに、アジアのレベルでは、ボールを持ったら奪われることはない。そんなテクニシャンだった。そして、ドリブル突破のときも、ぜんぜん走らないのだ。走っていても、ゆっくりゆっくり……。当時、一部では、「ジョギング・ドリブル」と呼ばれていた。
その木村和司が、「サッカーは走らなきゃ。ワシも30歳になって分かったんだ」とやったのである。そういえば、同じく天才で走らないことで有名だった川勝良一も、監督としては常々「昔のオレのように走らない選手は使えない」と言っている……。
その木村和司監督。「これまで、監督経験もない人に監督をさせて大丈夫かな」と心配していたのだけれど、少なくともすごく面白いサッカーをさせているので、僕は正直驚いている。「面白い」というのは、「やっている選手たちが楽しそうで、溌剌としている」という意味である。というのは、今年の横浜は、選手たちが本来やりたがっているプレーを自由にやらせているように見えるのだ。
昨年、横浜を率いていた木村浩吉監督は、戦術的に考え抜いたサッカーをしていた。相手によってメンバーを変えてみたり、あるいは、本来と違うポジションで起用したりと、工夫ややり繰りをしながらの采配だった。
たとえば、本来はMFである兵藤慎剛をFWとして使い、DFの松田直樹はボランチとして起用され続けた。「新境地を開拓する」という効果もあったのと同時に、選手たちには、本来と違うポジションでプレーしていることでの戸惑いのようなものも感じた。シュートを打ってしまえばいいところで、やはり本来MFの選手はパスのコースをさがしてしまう。そんな場面も見え隠れした。
それが、木村和司監督は、選手たちを本来のポジションに戻して使っているのだ。おそらく、戦術的な細かい指示を与えるよりも、選手たちに気持ち良く、その持っている才能を発揮させることをテーマにしているのだろう。まあ、言ってみれば、監督がトルシェからジーコに代わったようなものかもしれない。
選手たちが、伸び伸びとプレーし始めた……。それが、今の横浜なのである。長期的に見れば、ジーコの日本代表と同じでマンネリに陥る危険もあるが、そこが代表チームとクラブチームの違いで、ジーコがクラブのサッカーでは成功したように、木村和司の「馬なりサッカー」も成功を収めるかもしれない。しかも、そこに「最大の刺激」である中村俊輔も復帰したのだから、当分はマンネリの危険はない。
そんな木村和司監督の大仕事の一つが、長谷川アーリアジャスールのFWでの起用だろう。
身体能力も高く、サイズもあり、運動量もある長谷川。昨年まではMFだったが、何かプレーぶりがせせこましい感じがしていたが、FWに起用されて、そのダイナミックな運動量が活かせるようになっている。中盤に下がってプレーしてから、前線に持ち出していくドリブルやフリーランニング。FWのポジションにもっと慣れていったら、さらに才能を発揮できるようになるだろう。
トップで、比較的固定的にプレーする渡邉千真とのコンビネーションもこれからの課題だ。大きさのあるFW2人なので、近い距離でプレーするよりは、大きく左右に開いたり、前後の関係にした方がいいのかもしれない。
長谷川は、その運動量を生かし、渡辺の位置を飛び越えてゴール前まで走りこむ動きで、中村からのパスを受けられれば、一発のパスでゴールに絡める仕事ができるかもしれない。第2節では、ゴール前に飛び出す選手がいなかったので、中村俊のパスはもっぱらサイドの選手を使うパスだったが、そこに、ゴール前へのパスが加われば、相手にとっては非常に嫌なチームになるだろう。
木村和司監督と横浜F・マリノスの進化に注目したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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