「ハーフタイムにもっと迫力を出すように指示した。強く言い過ぎたのか……」。
中国戦終了後の岡田武史監督のコメントに出てきた表現だった。要するに、前半はビルドアップはできていた。だが、ゴール前で思い切りがなかった。泥臭さがなかったということをハーフタイムに指示したら、後半は、それを受けて、早いタイミングで放り込んでしまったというのである。
まったく、なんと忠実な、正直な選手たちなのであろう!
そもそも、この日の前半、サイドからパスで攻め崩すことにこだわったのは、先日のベネズエラ戦で「中でプレーしすぎた」という反省があったからである。反省をし、それを修正するというのは、もちろん正しいことだし、そうした真面目さこそが日本の選手の最大の良さである。だが、そうなると、今度はとにかく外から崩すことにこだわってしまうのだ。さらに言えば、最後に泥臭さがなく、思い切りシュートを打てないというのは、「パスをつないで、最後はショートクロスで勝負」という、日本代表のコンセプトに忠実すぎるからである。
コンセプトを大事にするのは当然。そして、練習でそのコンセプトに沿ったパターン練習を繰り返すのも当然。だが、ゲームになったら、必要な場面ではコンセプトを無視してでも、コンセプトの逆も取り混ぜてプレーしなければ……。オシム監督時代、トレーニングの決まり事を意識的に破ったプレーをした選手が褒められる場面があった。それである。
36分、右サイドから相手に競り勝って抜け出した岡崎慎司がペナルティーエリア内にドリブルで進む。角度はなかったが、前にいるのはGKだけという場面だ。これは、まずシュートを選択すべきだろう。あるいは、そのままGKめがけてドリブルで進んでもいい。だが、岡崎はコンセプトに忠実に(?)ファーサイドの中村憲剛へのマイナス気味のクロスを選択し、クロスは中国のDFにカットされてしまった。
42分には、右からやはり岡崎が抜け出したが、再び岡崎はパスを選択。このときは、中村の足元にピタリと合ったのだが、今度は中村が思い切りシュートできず、インサイドで慎重に狙いすぎて、かえってシュートはポストをかすめてしまう。そして、ハーフタイムに岡田監督がハッパをかけたら、今度はアップテンポなパスをつないで、よくあるパターンの攻め急ぎに陥ってしまったのだ。
東アジア選手権の初戦で硬くなってしまったり、焦ってしまったり……。4ヶ月後のワールドカップ本大会の舞台で、緊張せずに、思い切ったプレーができる強いメンタリティーを身につけることができるのだろうか?岡田監督の言う「選択科目(専門科目)」を4ヶ月でマスターできるのか……。攻めがサイドばかりになってしまったのは、そうしたメンタリティー的な理由だけではない。
センター攻撃を仕掛けたくても、トップにターゲットがいなかったのだ。
中国戦の日本代表は、4-2-3-1というか、スリートップというか、岡崎がトップにいて、その下に中村。そして、右に大久保嘉人、左に玉田圭司。こうした布陣の場合、やはり中央にはターゲットマンが必要なのだろう。だが、岡崎の持ち味は、運動量を生かしてスペースに入り込んでいくこと。トップに張っている岡崎では、その持ち味は発揮できない。当然、中盤に下がったり、サイドに回ったりと岡崎が動き回るのだから、ターゲットにはなりえない。玉田でも、大久保でも、あるいは佐藤寿人を置いたとしても、ターゲットにはなれない。
後半になって、62分に玉田に替わって平山相太が入ると、ベネズエラ戦でもそうだったが、ターゲットができたことによって、日本代表の攻撃パターンに変化が見えた。ああいう時間帯に平山を入れるというのは、ゴールゲットの能力を期待してのことなのだろう。だが、平山に30分で確実に1点を奪う能力があるとは思えない。だが、平山がいれば、前線でターゲットになる。前でボールを収めて、MFやサイドバックが攻めに参加する時間を作ることができる。それは、確実に実現できることなのだ。
それなら、平山をスタートから入れて、リズムを作らせた方がいいのではないか?
つまり、ゴールゲッターとしての平山ではなく、ターゲットマンとしての平山を使えばいいのだ。平山でなくとも、巻誠一郎でも、矢野貴章でもいい。あるいは、大きさではなく、ボールを収めるテクニックのある選手(前田遼一)でもいいし、DFを背にボールをキープして反転シュートに持ち込める森本貴幸でもいい。どんなコンセプトで戦うにしても、サッカーにはやはりターゲットマンがいた方がいいのではないだろうか。
ところで、攻めあぐね続けた日本代表は、85分になって佐藤寿人と金崎夢生を投入した。だが、残り5分で結果を出すのは難しいだろう。70分を過ぎる頃から、日本代表の前線の選手には疲労が蓄積し、クロスの精度も落ち始めていた。それなら、もっと早い時間に交代のカードを切るべきだったのではないか。そう、岡田監督に質問したところ、身も蓋もない回答が返ってきた。
「交代で出す選手がゲームの流れを変えられるとは思わなかった」
たしかに、佐藤と金崎が決定的な仕事ができるとも思えない。では、他の選択肢はとメンバー表を見てみても、たしかにほとんど交代すべき選手がいないのである。このままでは、たとえばデンマーク戦で1点取って引き分けに持ち込めればグループリーグ突破が実現する、といった状況でも点を取りに行く交代ができないということになる。やはり、森本あたりは少なくともベンチに置いておくしかないのだろう。あるいは、残り5分の交代だったら、DFを入れて、闘莉王をトップに上げるしかない。13年前に、岡田監督が日本代表監督となって初めての試合。ウズベキスタン戦でリードを許し、最後の時間にDFの秋田をトップに上げたあのやり方だ。
課題が次々に明らかになってきた日本代表。とりあえず、香港相手に点を取る感覚を思い出してから、韓国戦に臨んでもらいたいものである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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