ワールドカップイヤーの日本代表の初戦となったベネズエラ戦。なんともぬるいゴールレスドローに終わった。
岡田武史監督は、「ある程度満足している」と評したが、それは現在のチーム状態や、今後の強化プランを考えて、監督としての立場で満足しているのであって(しかも、彼はわざわざ「ある程度」という言葉を付け足した。なんという正直者なのだ!)、それほど安価ではない入場料を払って見に来た観客にとっても、飛行機代を払って見に行った僕にとっても、「満足な試合」とはやはり言えないものだった。
2月の上旬の試合が面白くないのは当然だ。Jリーグのクラブは、ようやくキャンプインした時期だ。選手たちのコンディションは、当然、整っていない。元日まで真剣勝負を繰り広げた選手と、早々と12月のはじめにオフに入った選手のコンディションに差があるのも当然だ。昨年も(というよりも、ここ数年ずっとそうなのだが)、日本代表は1月からの始動を強いられた。
昨年(2009年)は、2月4日に国立競技場でフィンランドとの親善試合が行われた。だが、今回のベネズエラ戦は、そのフィンランド戦に比べても、大きく見劣りする。しかし、これは当然のことだ。昨年の日本代表は、2月11日に、何とワールドカップ最終予選のオーストラリア戦という重要な試合を控えていたのだ。1月中に熊本でのイエメン戦があり、バーレーンに遠征して0‐1で敗れるなど、すでにアジアカップの真剣勝負も2試合経験している。
それに対して、今年はこれが初めての試合(イエメン戦は実質上Aマッチとは言えない)。東アジア選手権を控えるとは言っても、それ自体がワールドカップへ向けての準備試合なのだ。いかにして、チームのコンディションを6月14日にピークに持ってくるかが重要なのだ。2月2日にコンディションが整わないのは当然。むしろ、今の時期に絶好調だったら、それこそ由々しき事態を言わざるを得ない。そんなわけだから、とりあえず、両チームともに決定機をつかめない凡戦に終わった親善試合を批判しても仕方のないことだ。見るべきは、「何か収穫はあったのだろうか?」ということである。
1つの収穫(?)は、新戦力の見極めだ。注目すべきは、小笠原満男と平山相太。小笠原は先発し、75分までプレー。一方の、平山は59分に交代で登場。約30分プレーした。小笠原は、当然、実力的には代表の中心になっていてもおかしくない大物である。だが、さすがにこの時期に招集されて、まだ周囲とのコンビネーションも合っていないし、本人もまだ遠慮している部分も大きそう。パスの呼吸が合わずに顔を見合わせるような場面も何度もあった。だが、これも仕方のないこと。時間と経験によって解決していくしかない。
それでも、前後半に1本ずつ遠めから狙ったシュートには可能性を感じさせたし、彼らしいパスでチャンスを作る場面も(期待よりは少なかったが)見られた。例えば、34分にペナルティーエリア内の岡崎慎司に出した浮き球のパス。横から流れてきたボールを受けたとき、ベネズエラの選手がすでにチャレンジに来ていたが、その相手選手を十分に引き付けておいて、ワンタッチで浮かせて岡崎を走らせたのだ。あの状況でしっかり前を見ていられる技術。そして、正確にボールを送り込む技術。さすが小笠原である。
同じ場面、中村俊輔だったらどうだっただろう?
おそらく、相手がタックルに来るのを、足技でかわして、フリーになってから正確なボールを上げるのだろう。小笠原は、相手をはずすのではなく、相手を引き付けて、早いタイミングでボールをペナルティーエリアに送り込む。やはり、ゲーム作りを中村俊に任せるのか、小笠原に任せるのかによって、チーム作りは大きく変わってくるのだ。岡田監督が問題ととらえたのは、小笠原が中村俊のようにアウトサイドで起点を作るプレーヤーではなく、「中でプレーする」選手だったことのようだ。中村憲剛も同様なだけに、相手のプレッシャーにつぶされたというのだ。
エスパニョールに移籍後、出場機会を減らしている中村俊のコンディションは、日本代表にとっても大きな問題だ。これまで、中村俊を中心に据えて作り上げてきた日本代表。もし、万一、中村俊が仕えなくなってしまったら……。それは悪夢でしかない。岡田監督がこの時期に小笠原を招集したのにも、どこかに「中村俊の代役」という危機意識があったのかもしれない。しかし、実力的には甲乙付け難い選手ではあるが、中村俊の代わりにそのまま小笠原を入れるのは難しい。その、当然のことが証明されたのがベネズエラ戦だった。
その、中盤の問題を解決するために岡田監督が採ったのが、サイドバックを高く張らせるという戦い方だった。そのために、前半の最後の時間帯からMFの稲本潤一を下げて、「遠藤保仁を前、稲本を後ろ」に置く縦の関係にした。稲本が、中澤佑二と闘莉王の間に入ってスリーバックを形成することによって、両サイドバックが上がりやすくしたわけだ。
このボランチ2人の縦並びには、いくつもの意味が含まれている。
まず、第一に、稲本をアンカー的な位置に置くことによって、センターバックの守備をサポートさせること。これは、オランダのような、攻撃力に優れたチームを相手に戦う場合に、有力なオプションになる。また、稲本が最終ラインをサポートすることによって、中澤や闘莉王が攻め上がる機会も作れる。11月の南アフリカ戦では、3ボランチの一角として稲本をアンカーで起用したが、今回のベネズエラ戦では、2ボランチを縦位置に並べることで稲本をアンカーとして機能させたわけだ。
第2に、ベネズエラ戦の場合がそうなのだが、相手のMFがダイヤモンド型で、トップ下に優秀な選手がいる場合に、そこをアンカーの稲本がつぶすことができる。そして、第3に、岡田監督が意図したように(当初は、単に相手のダイヤモンド型に対応するだけの縦並びだったのに、後半は攻めのために=両サイドバックが上がれるように縦並びを徹底した)、サイドバックを上げる攻めのオプションのために、稲本が仕えるということが証明された。
というわけで、見るべきものもあったベネズエラ戦だった。まあ、それでも試合は面白かったわけではないので、明日(2月3日)は、関アジ、関サバでお馴染みの佐賀関でも観光して(もちろん、美味しい魚も食べて)帰ることにしよう。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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