全日本大学選手権の準決勝を見に平塚まで行ったら、観客席はともかく記者席がいっぱいでびっくりした。各チームのスカウトなどの関係者も当然たくさん陣取っているが、取材の記者も多い。第1試合が終わったところで、その理由が分かった。来る1月6日のイエメン戦で日本代表に抜擢された福岡大学のFW永井謙佑がお目当てのようで、試合終了後には彼の周りにたくさんのカメラが群がった。
まあ、こういうきかっけであっても、大学サッカーに、それも九州の雄、福岡大学にスポットが当たるのは悪いことではないだろう。
福岡大学の準決勝の相手は関東の強豪、駒沢大学。試合は、両チームとも相手をつかまえきれていない前半の10分に、福岡大学がワンタッチパスをポンポンと5本つなぎ、最後はMF市川稔が抜け出して先制ゴールを決めた。ポジションも流動的で、パスのリズムも良く、駒澤大学は完全に後手に回った。この先制ゴールでリズムに乗った福岡大学が、その後も何度かワンタッチ、ツータッチのパスを回してビッグチャンスを作ったが決めきれない。すると、フィジカルで上回る駒沢大学が次第に押し込むようになり、福岡大学の守備陣が何度か不用意なファウルで止め、セットプレーから駒沢大学にチャンスが生まれる。
だが、結局こちらも決めきれず、前半は1-0で終了。後半も、同じような展開が続いたが、62分、スローインからつながったボールを、交代で入ったばかりの駒沢大学の那倉夢人が強引にドリブルして相手のファウルを誘い、駒沢大学が三島康平のPKで同点に追いつく(得点は63分)。ゲームの流れは、駒沢大学に移ったかと思われたが、直後の66分、再び積極性を増した福岡大学が、右サイドの岸田翔平のクロスを、こちらも交代で入ったばかりの高橋祐太郎が頭で決めて2-1とし、福岡大学がその後の駒沢大学の猛攻をしのぎきって決勝進出を決めた。
で、問題の永井だが、その素質だけは十分にうかがい知れたといった出来だった。
裏へ抜けるスピードと、ボールを扱うテクニックが特徴の選手である。ただ、この試合は駒沢大学がパワープレー的に押し込んでいる時間が長く、いいボールが回ってこないという面もあったが、ボールのもらい方にはまだまだ工夫の余地がある。テクニックがあるだけにボールに触りたがる傾向があるのだろう。中盤に下がってパス回しに加わる場面があったが、自分の持ち味であるスピードという特徴を考えたら、もっと前線に張ってDFラインの裏に走り込む形を狙った方がいいのではないだろうか。
また、パスを受けるための予備動作。あるいは、顔を出して味方からパスを呼び込むための動きの工夫が必要だ。前線にいると、ただパスが来るのを待っているような場面が多すぎる。さて、準決勝に勝った福岡大学は、来年の1月6日に国立競技場で行われる決勝戦進出が決まった(相手は、持ち前の守備の強さで関西大学を破った明治大学)。だが、エースの永井は同じ日に、遠くアラビア半島の南端ノイエメン、サヌアで行われる代表のゲームに参加していて不在ということになる。
エース不在ということで渋い表情かと思ったが、福岡大学の乾真寛監督は嬉しそうである。
「ワールドカップのメンバーの最後の23人に滑り込んで欲しい」と笑顔がこぼれている。大学や高校の先生たちは、誰でもそうだが、教え子が認められるのを本当に喜んでいるのだ。イエメン戦のFWとしては、平山相太、渡邉千真、大迫勇也、そして永井謙佑と4人が選ばれている。平山は大型のセンターフォワード。渡邉、大迫は総合的なストライカータイプで、永井は唯一のスピード系FWだ。イエメン戦ではツートップで戦うだろうから、大型のFWとコンビを組んで永井が出場する可能性は高い。そして、もし活躍することができれば、ワールドカップ本大会用のバックアップとして、リストの上位に名を連ねることになる。
今の代表には、大型のセンターフォワードはいない。強いて言えば、トップでボールを収められる選手は前田遼一と森本貴幸ということになる。そして、スペースに走り込むタイプの選手としては岡崎慎司、玉田圭司、大久保嘉人などがいるが、岡田監督の攻めのコンセプトにとってはきわめて重要なピースであり、また、運動量が求められるため、このタイプのFWは3人はメンバー入りするのではないか。岡崎、玉田、大久保などが故障した場合のバックアップとしては、かつては代表の中心選手でもあった田中達也もいるが、今年は故障で離脱している時間が長かった。来年の6月までにコンディションがどこまで戻るのか……。
このように、もし、レギュラー陣になんらかの不測の事態生じた場合には、永井の23人目としての抜擢はなきにしもあらずということになる。
それにしても、永井謙佑の素質がそれほどすばらしいものだとしたら、20歳前後の大事な時期に、大学の選手として同年代の相手としか公式戦を戦えないというのは、彼の成長のためにいかがなものだろうか?しかも、彼の場合は、主として九州の大学と試合をしているのである。もちろん、制度的には福岡大学天皇杯などでJリーグ勢とぶつかることはあるが、多くても数試合。強化指定選手という制度もあるが、それとて十分ではない。大学のチームの、それも地方大学所属の選手が、いきなりワールドカップで世界のビッグクラブに所属するDFと対戦したら、これは一種のサプライズということになる。
大学のサッカーのレベルが高く、卒業後Jリーグで活躍したり、代表に入ったりする選手が多数いるというのは、育成の路線が複数存在するということで、日本サッカーにとっての一つの財産であることは間違いないが、しかし、やはり素質のある選手にはもっと厳しい環境で伸びていってもらいたいものだ。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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