ACLの準決勝で名古屋グランパスがサウジアラビアのアルイテハドに敗れた試合を見に行った後、このコラムで「日本のサッカーには『守りの文化』が欠如している」ということを書いたはずだ。その直前には、U-17ワールドカップで日本代表が守備のミスから失点を重ねて3戦全敗を喫していた。

そして、先日東京で行われたACLの決勝戦では韓国の浦項スティーラーズが見事に「守備の文化」によってアルイテハドを破って優勝を遂げたのを見て、また「守備の文化」について考えさせられた。

決勝戦を見ても、やはり攻撃力では、圧倒的にアルイテハドのほうが上だった。序盤こそ撃ち合いとなったもののその後はがっちりと組み合ったままの膠着状態が続いたが、次第にアルイテハドの攻めでの優位がはっきりしてきた。トップにいる重量級FWのモハメド・ヌールと技巧派のアミン・シェルミティ。そこにすばしっこいアボシュゲールがからんで、ワンタッチのパスが浦項の守備の網を切り裂いた。パスにはスピードがあり、また、その速いボールを正確につなぐ技術がすばらしい。さらに、右サイドからアブシェルアンがドリブルでしかけてくる。

一方の、浦項はMFの金在成(キム・ジェソン)と金泰洙(キム・テス)の忠実なフォローもあるが、なんといってもデニウソンのドリブル突破だけが頼り。そんなこんなで、アルイテハドのリズムで前半が終了したのだが、しかし、僕は「浦項の戦いも悪くはない」と思った。なにしろ、しっかりとした守備で攻められてはいても、決定的な突破は許していなかったからだ。最も決定的な場面は36分のアブシェルアンのFKからの強烈なシュートだったが、これはGKの申和容(シン・ファヨン)が見事な聖便具ではじき出した。

実際、浦項の守備は後半になっても崩れなかった。そして、57分にはステボのドリブルで得たFKを盧炳俊(ノ・ビョンジュン)が直接決めて先制。さらに66分にも、FKからのボールをDFの金亨鎰(キム・ヒョンイル)が頭で決めて2−0とリードしたのだ。2点目は金亨鎰のすばらしいヘディングによるものだったが、1点目はカベがジャンプしたときに完全に隙間を開けてしまった守備のミスだ。

アルイテハドはアジアで屈指の攻撃力を誇っている。だが、守備に欠陥が多々あることは、準決勝のファーストレグで1人少なくなった名古屋グランパスに2点奪われたことを見ても明らかだった。「粘り強く守って、セットプレーからの得点を重ねて勝利」という浦項の戦い方は、やはりアルイテハドというチームの特徴を考えたら、きわめて合理的な戦い方だった。浦項の選手たちは、DFだけでなく、MFもFWも、とにかく粘り強く、アルイテハドの選手に体を寄せていった。時には、後ろからタックルをしかけてイエローカードをもらうこともあったが、1人が激しくプレッシャーをかけて、もう1人がしっかりカバーするなど戦術に忠実なプレーで守りきった。

何よりも大切なのは、そうした組織的な守備をしながらも、「1対1では絶対に負けない」という気迫を前面に出して、相手との距離を詰めて激しさを見せたことだろう。もちろん、安易に飛び込んではテクニックのある相手にはかわされてしまうことになる。だが、だからといって組織だけで守っていては、相手との距離が開いてしまい、結局なんのプレッシャーもかからないで、相手に自由にプレーさせてしまうことになる。

その点で、浦項の選手たちは戦術に対する忠実さと同時に激しく、相手との距離を詰めて「激しく」プレーした。それは、何も気持ちとか、気迫とかだけではない。「守備の技術」もしっかりしていた。相手がドリブルをしかけてきたら、相手が縦に抜けようとしているのか、中に切れ込もうとしているのか。相手の意図をしっかり見極めて、それを防ぐにはどのような角度で体を入れていったらいいのか。そうしたことを、相手と駆け引きしながら守っていた。

ACL決勝の翌日、ジェフユナイテッド千葉のJ2降格が決まった川崎フロンターレ戦で、ジェフの選手たちは気迫を見せて戦った。激しく当たりに行って、相手のシュートやパスのコースにためらわずに体を入れていった。「あんな気迫あるプレーを最初からしていたら、降格も防げたのでは……」とも思える試合だったのは確かだ。

だが、しかし、気迫だけで守りきれるものではない。やはり、守備の技術といったことまで突き詰めていけば、どんなに気迫を持って戦ったとしても、ジェフの守りでは長いリーグ戦を乗り切ることは不可能だっただろう。

ACL決勝に話を戻そう。
「アルイテハドのほうが攻撃力はかなり上。当然、攻め込まれる時間が長くなる。それなら、しっかりと守って少ないチャンスを生かすべきだ」。これは、きわめて合理的な考え方だろう。そして、たとえば日本代表がワールドカップでヨーロッパの強豪国と戦うときも、状況はかなり似てくると思う。スペインとかオランダとかと戦ったら、攻撃力ではどう考えても劣勢となる。好むと好まざるとに関わらず、攻め込まれる時間が長くなる。「守備をどうするか」を考えないといけないのは当然のはずだ。

ところが、日本では、ワールドカップ出場が決まってから「どうやったら点が取れるか?」という話題ばかりが先行していた。ようやく、9月のオランダ遠征でショッキングな失点をいくつか経験してから、守備面についても言われるようになってきたのだが……。

サッカーは、相手より1点でも多くゴールを決めることを目的としたゲームだ。「相手より1点でも多く決める」というのは、逆に言えば「相手より1点でも失点を少なくする」ということでもある。攻撃と守備の両者があってこそ、ゲームは成り立つのだ。もちろん、DFにも、奪ったボールを攻撃につなげる技術力や戦術能力も求められる。だが、DFにとって最も大切なものが相手との競り合いで負けない。抜かれない、シュートを撃たせないといった「守りの能力」であるのは当然ではないか。

優れたDFが生まれないのも、日本ではそういう見方がされていないからなのではないか。ストライカーを育てる英才教育の必要性を説く人は多いが、同じく特殊な能力であるストッパー育成を説く人は少ない。それが、日本の現状だ。だが、守備の重要性が見直されない限り、日本が世界と戦える日は遠いだろう。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授