11月の日本代表の南アフリカ(および香港)遠征は、僕もぜひ取材に行きたいと思って、現在計画中である。
日本代表にとっては、今年最後の試合であるとともに、来年のワールドカップ本大会に向けてのシミュレーションとしての意味も大きい。実際に現地のスタジアムや宿泊場所を体験し、また南アフリカ国内の移動を経験しておくことは、大きな役に立つだろう。選手にとっても現地を知っているということは心理的な余裕となるはず。
同時に、今度の遠征は僕にとっても、やはりシミュレーションとしての意味が大きい。ドイツとかフランスとかなら、これまでに何度も行ったことがあるから、ワールドカップが開かれるとしても、だいたいの想像はつく。国内の移動やホテルの事情も分かっている。だが、南アフリカという地はわれわれにとって、まったく馴染みがない。とくに、僕は6月のコンフェデの取材に行かなかったからなおさらである。というわけで、すでに飛行機の手配も終わり、現在、宿泊施設の物色中である。これも、もっとよく知っている国なら直前の準備でいいのだが、相手が南アフリカということで、準備もかなり前倒しということになる。
試合会場は、最初はワールドカップの準決勝が行われるダーバンの新スタジアムだということで、ヨハネスブルグ(最大の都市で、国際線の飛行機の大半がこの町に到着する)とダーバンの移動も手配しなければならないなあ……と思っていたら、ダーバンのスタジアムの完成が遅れて、会場が変更になった。一時は、ヨハネスブルグから100キロほどのところにあるルステンバーグ(コンフェデの会場にもなった)に変更という情報があり、その後、ヨハネスブルグのオーランド・スタジアムになった。
オーランド・スタジアムは、この町の名門オーランド・パイレーツの本拠地だ。「ワールドカップ用の新設スタジアムよりは、歴史の染みこんだパイレーツのスタジアムの方が楽しそうだなあ」と思っていたが、調べてみたらオーランド・スタジアムも全面改築で完成したばかりのようだった。これは、ちょっと残念。
オーランド・スタジアムは「ヨハネスブルグの」という発表だったが、もうちょっと現実的に言うと「ソウェトの」スタジアムである。オーランド・パイレーツと、同じくソウェトにあるカイザー・チーフスの一戦は、「ソウェト・ダービー」として知られるビッグイベント。国中が注目する一戦だ。
「ソウェト」というのは、ヨハネスブルグの南西にあるこの国最大のタウンシップの名前である。タウンシップというのは、黒人居住区のことだ。南アフリカは、かつて白人(オランダ系の「アフリカーナー」)たちが支配し、黒人など有色人種を差別するアパルトヘイト政策で知られた国だった。その政策が最高潮に達した1970年代、南アフリカ政府は黒人たちを人種別に分けて、それぞれの地域をいくつもの「国」として独立させたのである。南アフリカの国土のうち、都市部をはじめ、農地や鉱山など経済的に意味のある地域は白人の支配の下に置いて、不毛の荒野が黒人たちの独立国「ホームランド」とされた。
当然、黒人たちは、何の産業もないそれぞれのホームランドの中だけでは暮らせないから労働者として都会に住みつく。だが、彼らは形式的にはホームランドの国民だから、南アフリカ政府は彼らを外国人として扱い、彼らは居住区であるタウンシップから出ることも自由ではなかった。ひどい話である。そのタウンシップの一つが「ソウェト(Soweto)」だった。「South Western Township」の略。「南西居住地」とでも訳せばいいのだろうか。
アパルトヘイト政策の下で黒人たちの抵抗運動が弾圧されていた1970年代、僕は高校生、大学生だった。英語の勉強も兼ねて英文の雑誌なども読んでいたが、当時は、今みたいに外国雑誌をインターネットで申し込んで簡単に購入することもできず、日本でも売っていたアメリカの雑誌「タイム」や「ニューズウィーク」なんかを読んでいたものだ。そして、それらの雑誌で、時々「南アフリカ」特集があり、その中で僕は「Soweto」という町があることを知り、「それにしても、町の名前もなんと無機質なことか」と思ったことをよく覚えている。
当時は、そんなところに自分が将来行くことになるとは思わなかった。
そういえば、オマーンなんかもそうだ。小学生のころ、学校で使う世界地図を見ていると、アラビア半島に「オーマン」(昔は「オマーン」ではなく、「オーマン」と表記した)とか、「トルーシャル・オーマン」といった国を見つけたのだ。「トルーシャル」というのは「休戦」という意味で、あのあたりを支配していたイギリスが現地の首長国と休戦協定を結んだことから、こんなヘンテコな名前で呼ばれていた。現在のUAEのことだ。
僕は子供の頃、自分が生きている間に「大金さえ払えば、火星くらいには行けるようになるのではないか」と思っていた。だが、「オーマン」とか「ソウェト」に自分が行くようになるとは、まったく想像もしていなかった。今では、オーマンとかUAEには、ほとんど毎年のように行くことになってしまったが……。
そんなわけで、11月の「ソウェト」訪問は、なんとなく楽しみなのである。
抵抗の象徴だった「ソウェト」だが、今では少なくともその中心部は観光でも訪れることができるようになっている。オーランド・スタジアムは、その「ソウェト」の中心部からも近い。で、せっかく「ソウェト」で試合なんだから、「ソウェト」の中に泊まってみようかと思って調べてみたのだが、「ソウェト」内の宿泊施設は安宿を巡る観光客用のもので、インターネット環境があまりよくないようなので涙を飲んで断念した。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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