Jリーグの首位攻防戦だった。

勝点差は7もあるから、この試合で2位の川崎フロンターレが勝っても差は4に縮まるだけ。だが、ここで鹿島アントラーズが勝ってしまえば、もう鹿島の優勝が確定的になりかねない。鹿島ファン以外の多くの人たちは、川崎の勝利を祈っていたことだろう。そして、実際、川崎が先手を取って3-1とリード。残り時間も少なくなってきたところだった。突然、岡田正義主審が選手に引き上げを命じたのだ。

それ以後の展開については、すでに広く報道されているから詳しく書く必要はないが、「ピッチコンディション悪化」を理由に試合は中止されてしまったのだ。記録には残らず、「幻」に終わってしまいそうな首位決戦ではあるが、試合はさすがに首位攻防にふさわしい大熱戦だった。そのことを記憶しておくために、試合内容について振り返ってみたいと思う。

試合前の興味の一つは、川崎のDFに負傷者や出場停止者が続出したこと。首位決戦を前に守備人が手薄になったのだ。川崎は、Jリーグ初出場の薗田淳がストッパーとして先発し、マルキーニョスをマークした。立ち上がりは、たしかに守備に問題はあった。最終ラインの守備は悪くはなかったが、ストッパーがラインをブレークして相手ボールにチャレンジしていく場面がなくなったのだ。鹿島の選手が最終ラインの前でフリーになる場面が何度かできてしまった。小笠原満男を中心に、ダニーロ、野沢拓也が参加していわゆるバイタルエリアあたりで、鹿島がパスを回す。

そんな立ち上がりの激しい攻防が一段落した19分、川崎に先制ゴールが生まれた。相手のDFがドリブルして上がるところを中村憲剛がカットして、そのまま前の鄭大世にボールを供給。中村憲からのパスをフリーで受けた鄭大世が、ペナルティーエリアのライン辺りから強烈なシュートをゴール右上に突き刺した。その後は一進一退の攻防が続いたが、30分、左の野沢からのクロスをマルキーニョスが決めて鹿島が追いつくと、その2分後には中村憲剛の左CKを鄭大世が頭で決めて、川崎が再び1点をリードする。

中村憲は、日本代表のオランダ遠征に参加しており、水曜日にガーナ戦に出場した後、中2日での試合だった。長距離移動や時差もあって調整は難しかっただろうが、見事にいつものと同じようなプレーを見せた。いや、これまで以上の力強いプレーを見せたと言うべきかもしれない。先制ゴールを生んだときの守備もそうだ。相手を正面から受け止めてボールを奪った守備力。パスにしても、これまでになく鋭く相手の裏を衝く場面が目立った。中村憲のパスは、スペースを見つける目にその特徴がある。相手のラインの裏に浮かせて落とす。そこに、俊足の川崎攻撃陣が走り込むのだ。

だが、鹿島との試合では「スペースに落とす」というよりも、DFとDFの間の小さなスキをつく鋭いパスが多かったのだ。たとえば、8分左サイドでサイドバックの村上和弘からのパスを受けると、そのままタッチライン沿いに鋭いパスを通して村上を走らせた(オフサイドだった)。あるいは、22分には前線で相手のマークを逃れてフリーになっていたジュニーニョに出した縦パス。球速が速いパスだったので、さすがのジュニーニョも一発でのコントロールが難しく、ボールが浮いてしまったが、ジュニーニョはその後うまくコントロールしてシュートまで持ち込んだ。

これだけ鋭い、球速のあるボールはこれまでの中村憲にはあまり見られなかったものだ。

おそらく、オランダでの2試合を通じて、スピード感覚のようなものが変わってきたのではないか。「強豪チームを相手に、スルーパスを通すにはパススピードが必要」。そんな意識が生じてきたのだろう。「中2日」でプレーしたということよりも、そのプレースタイルすら変わりつつあることに僕は驚いた。中村憲についてだけで言えば、オランダ遠征は大成功ということになる。

後半に入ると、川崎の関塚隆監督は64分までの19分間に、3人の選手を交代させた。どれも、故障による交代ではない。普通、負けている方のチームは当然何かを変えなければいけないので、選手交代を早めにしかけてくるものだ。だが、リードしているのにメンバーを変えるのは、なかなか勇気のいることだ。問題が生じ、交代をしたいと思っても、その交代が全体のバランスを崩してしまうこともある。監督は、そのあたりを勘案して、交代を決めるわけだ。

だが、川崎の関塚隆監督には何のためらいもなかった。

前半は鄭大世をトップにした4-3-3。だが、後半の開始から左のワイドアタッカーだった養父雄仁を田坂祐介に替えて、ジュニーニョをトップに出して鄭大世と組んでのツートップに変更。59分にはレナチーニョに替えて横山知伸を入れて、同じく4-4-2ながら中村憲剛を右のMFに回す。さらに64分には、初出場の薗田に替えて、アタッカーの山岸智を入れて、横山がストッパーに、中村憲が再びボランチに……。

シーズンを通じて、多くの選手を多くのポジションで使い込んでくる中で、川崎のバリエーションは急速に増えてきていた。しかも、試合途中で変更があるのが普通なので、選手たちも慣れていて、システム変更がたいへんにスムースにできる。だから、1人や2人レギュラーが変わっても平気で戦えるのだ。バリエーションの多いチームに成長した川崎。その真価を試すかのような鹿島選手後半の一連の選手交代だった。そして、66分には、ペナルティーエリア内でジュニーニョがドリブルでゴー裏印に迫り、角度のないところから3点目のゴールを決めたのだ。

川崎が大きく勝利に近づいた。だが、鹿島のオリヴェイラ監督は71分に田代有三と増田誓志を投入。豪雨の中でパワープレーを試みようとしたときに、岡田主審が試合を止めたのだ。たしかに、ピッチ上には多くの水溜りができて、ボールが止まってしまう場面も多かった。だが、そんな試合は、僕はこれまでにも何度も見てきたし、岡田さんだって、そんなコンディションの中でレフェリーをしたことは何度もあるはずだ。悪コンディションの中で、いかにボールをコントロールするか。あるいは、どうやってスリッピーなコンディションを利用するのか。それもサッカーの楽しみの一つだったはずなのに……。

この熱戦をもう一度見られるのはうれしいような気もするが、強い雨の中で力いっぱいの激しい戦いを繰り広げた選手たちに対して、あまりに失礼な決定ではなかったか。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授