オランダ遠征の2試合、僕はかなり好印象を持った。

……などというと、代表チームについては辛口で悲観的なことを言うのがもてはやされる日本のサッカー界では、「なんと楽観的な!」とあきれられるかもしれないが、僕が好印象だったのは、もっとズタズタにやられるのではないかと思っていたからだ。たとえば、オランダ戦の最後の20分間くらいのやられ方。あれが90分続くというより、前半から押し込まれて3点くらい取られてゲームが終わってしまう……といった展開も予想していた。オランダ戦の前半は、前回のこのコラムでも書いたように、かなり評価が難しい。

オランダは明らかに出来が悪かった。コンディション的なものもあったろうが(新シーズン開幕直後で、しかも移籍問題で振り回されていた主力も多く、集中を欠いていた)、要するに日本を甘く見てくれていたわけだ。まあ、日本は中盤でパスが回ってもゴールを脅かせないのだから甘く見られても当然だ。しかも、エースの中村俊輔は開始早々に足を痛めて本調子からは程遠い出来だった。しかし、同時に、オランダが攻めの形を作れなかったのは、日本の中盤でのプレッシングが効いていたからでもある。オランダが本調子でなかったという要因と、日本のプレスが効いていたという要因のどちらを重視するかによって、ゲームの見方はかなり変わる。

プレッシングが効いたかどうかというポイントに絞れば、オランダ戦とガーナ戦を比べると、ガーナ戦の方が難しかったかもしれない。この試合は、オランダ戦とは逆に後半になって相手の足が止まって、日本に3連続ゴールが生まれたわけだが、前半の立ち上がりなどはプレスをかけに行っても、個人技でかわされてしまって、プレスが効かない場面も多かった。

ただ、相手のパスの精度がオランダに比べれば低かったために、完全に崩される場面はそれほど生まれなかった。この辺も、あくまでも相対的なもので、プレスをかけて失敗しても、相手がウズベキスタンなら最終ラインで守りきって無失点に抑えることもできるが、相手がオランダだとちょっとしたミスで3点も取られてしまう。ガーナは、その中間に位置する相手だった。

日本の守備の弱点は、サイドバックにあると思っていた。「内田の裏」のスペースを徹底的に崩されるかと僕は思っていた。もし、そうなってしまったら、サイドバックの人選から、システム変更まで含めて、これまで積み上げてきたチーム作りをコンセプトの部分から考え直さなければいけなかっただろう。たしかに、オランダ戦の後半などは内田のところで崩されたし、3失点目なども内田の甘い守備で楽にクロスを上げられてしまったりしたが、そこでズタズタという印象ではなかった。前半にロッベンと競り合った場面など、内田もスピードでは負けていなかった。

というわけで、今までのやり方でワールドカップでも戦えるという手ごたえがつかめた2試合だった、と僕は思ったのだ。

そして(「だからこそ」と言った方がいい、か)、課題もいくつも出てきた。守備面では完全に崩された場面はそれほどなかったのに、6点も失ってしまった。ガーナ戦の1点目は長友のハンドによるPKというまったく不要な失点。3点目は、GKの都築が無理に飛び出してかわされてしまったもの。この2点は防げた失点だ。ガーナ戦の2失点目は、かなりショッキングなもの。間違いなく日本最高のDFである中澤が、GKからのロングボールを競り合って、ギャンに完全に振り回されてしまった。ギャンがあそこで追ってくることすら、想像外のことだったのではないか。

オランダ戦の失点は、3点ともかなり難しいパスから生まれたもの。スペースもない中で、難しいボールをうまくコントロールして、正確にシュートが撃てるところがワールドクラス。こういう失点は戦術的に防げるものではない。シュートエリアでの体の寄せ方を1歩あるいは半歩早くするといった個人の意識を高めていくしかない。今後、強い相手との試合をどれくらい組めるのかが重要になる。

もともと、高い位置でプレスをかけていく守備は、そこでかわされてしまうと最終ラインで人数をかけられなくなる。うまくはまればゲームをコントロールできるが、かなりリスクの高い守り方ではある。コンフェデレーションズカップでアメリカがスペインを破った試合のように、ベタ引きでガチガチと守る方法もあるが、日本人にはあれはできない。しかも、少人数で相手を脅かす攻撃力のあるアタッカーがいないのだから、リスキーではあっても、高い位置でのプレスという岡田監督の選択は正しいのだとは思う。

それが90分続けられるのなら、それでいい。だが、オランダ戦の後半でバテてしまったことでも明らかになったように、それを90分続けるのは不可能ではないか。岡田監督は「90分続けないと勝てない」と(おそらく無理は承知の上で)言うが、もし本当にそうなのだとしたら、勝ち目はないということになる。必要なのは、高い位置でプレスをかける戦い方を続けられる時間を少しでも長くすると同時に、プレスがかからない状態になったとき、あるいは、ペース配分を考えて無理しなくてもいい時間帯に多少引き気味に守るやり方も準備することだろう。

オランダ戦の前半の日本の守備は、本来の狙いよりは多少低い位置でプレスをかけていた。あれがヒントになる。ベタ引きはできないのだから、中盤で守ってゲームをコントロールするしかない。そして、低い位置で守ってボールを奪ったときには、トップにロングボールを入れるとか、ゆっくりつないでポゼッション率を高めるとか、攻め方を考えないといけないだろう。

オランダ、ガーナ相手に、守備がズタズタにされてしまっていたら、3ボランチとか、3バックとかも含めて、システム、さらにはコンセプト自体から考え直さなければならなかったかもしれないが、そういう崩され方はしなかった。必要なのは、攻守にわたってのゴール前での詰めであり、また、高い位置でのプレスが効かなくなったときにどう守って、どう攻めるのかという「微調整」である。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授