本田圭佑のミドルシュートが炸裂し、岡崎慎司が飛び出して先制点を決めた。
これまで、中盤でしっかりパスをつなぐのはうまいが、フィニッシュの場面での動きに物足りなさがあった日本代表だったが、チリ戦ではこの先制点をきっかけに攻撃陣が大爆発。4ゴールを奪っての圧勝劇となった。試合後、チリのビエルサ監督が、「チリも、日本と同じようにチャンスを決めていれば同点にはできたかもしれない」と、まるでこれまで歴代の日本代表監督が何度も使ったような台詞を口にした。
本田は、先制点の場面だけではなく、何度もドリブルで持ち込んでは遠目からも積極的にミドルシュートを狙ったし、また、中盤での競り合いでもフィジカルの強さを見せて、相手ボールを奪う場面が何度もあった。オランダリーグ2部で、VVVフェンロを優勝に導き、自らも2部のMVPに選ばれた勢いをそのまま持ち込んだ形だ。本田の加入で、これまで、このチームに足りなかったダイナミックさが加わった。
一方、ブンデスリーガでヴォルフスブルグの優勝に大きく貢献したばかりの長谷部誠も、やはりダイナミックな動きを持ち込んだ。欧州組の中でも、レギュラーとしてゲームに出て、結果を残している2人は、見えているだけでも勢いのようなものが違った。長谷部と本田の動きのスケールの大きさ、そして、パススピードの速さは、相手の守備陣にとって大きな脅威になっていた。
本田のような新戦力(まったくの初招集ではないが、これまではシーズンオフに行われたアジアカップ予選だけ。ほとんど「初」と言ってもいい)が、最初からチームに溶け込むのはふつうは難しいもののはずだ。とくに、レギュラー陣がそろっている試合に1人だけ新戦力が入った場合ならともかく、チリ戦は、レギュラーの多くが負傷や体調不良で離脱し、いつもと違う顔ぶれでの試合だったのだ。
その本田が、完全にチームに溶け込んでプレーした。それは、本田自身の能力と意識の高さの証明でもあったが、同時に、このチームが、レギュラー陣が抜けて、何人かの選手が本来のポジション以外でプレーしていても、いつもと同じようなスタイルでプレーできるようになっていたためでもあった。
つまり、岡田武史監督が掲げる「人数をかけて高い位置からディフェンスをしてボールを奪い、素早く攻める」というコンセプトが、控え選手も含めてチーム全体に浸透してきていることも意味している。多くの選手が離脱しても、岡田監督が自信ありげだったのは、そういう意味だったのだろう。
一つの問題は、「だから、チームは完成した。あまり手を加えたくない」と(ジーコ監督のように)考えるのか、それとも「だから、今、新しい戦力を入れることが出来るようになった」と考えるのかだ。
多くの離脱選手が出なかったら、岡田監督はこれほど新しいことをテストしなかったことだろう。中村俊輔と松井や大久保や田中達が元気だったら、本田−中村憲−岡崎という2列目はなかっただろうし、長友の虫垂炎がなければ、今野の左サイドバック起用もなかったはず。そんな偶然の緊急事態から、新しいものが見えてくるのだからチーム作りというのは面白い。
たとえば、闘莉王不在のセンターバックは中澤と阿部になったのだが、闘莉王不在の中で中澤が闘莉王ばりの攻撃参加を再三見せた。2点目などは、中盤でパスをつないでいる間に、中澤が一気に前線に駆け上がって、長谷部からのパスを受けて岡崎のゴールをアシストしたものだ。もちろん、中澤の攻撃参加自体は、これまでにも何度も見ているが、あの上がりのタイミングとスピードは闘莉王が乗り移ったようだった。そして、パーフェクトなトラップと相手DFの位置を読みきったスルーパスは、とてもDFとは思えないテクニックだった(パスを出した長谷部は、中澤のプレーを「ミラクル」と表現した)。
目立たなかったけれども、遠藤もいつもとちょっと違っていて面白かった。中村俊の不在で攻撃に意識を高めたせいなのか、普段だったらボールを落ち着かせるような場面でも、リスクを冒してワンテンポ早いパスを出してみたり、逆に落ち着かせる場面でははっきりと後ろに戻したりと、これまでよりさらにメリハリの効いたパスワークを見せていたのだ。
また、これまでは左サイドでプレーすることが多かった本田が右サイドで(その結果、岡崎が左で)プレーしたのも面白かった。岡田監督によれば、これは、前日の練習中に本田が「右サイドの方がやりやすい」と言ったので、10分くらいやらせたらうまくいったので決めたのだそうだ。そして、それがきわめてうまく機能したのである。
とすれば、これまでのやり方を見直すことは他にもいろいろあるのかもしれない。チリ戦でも、今野が左サイドバックをやったのだが(代表でもクラブでも、経験済み)、長友の左サイドバックとまったく遜色ないプレーができていた。今野はボール奪取能力ではもちろん日本でもトップクラスだし、攻撃参加もできる。今野の使い道として、考え直す価値はありそうだ。
こうして、多数の主力選手の同時離脱という「偶然」は、われわれに新しいことをいろいろと見せてくれた。
岡田監督が悩むべきは、そこで、その新しいもの、新しい流れに身を任せて、来年のワールドカップ本大会に向けていろいろな新しいやり方を試していくのか、それとも目前の予選という真剣勝負を前に、これまでの選手を起用して、これまでのやり方に戻すのかという問題だ。中村俊が帰ってきて、どういう並びにするにしても、たとえば勢いに乗っている本田などは使い続けるべきだろう。
次のベルギー戦には、何人かの主力組は戻ってくくるはず。そこで、岡田監督がどういう選択をするかに注目したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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