「昨季最終節の後半20分まで、我々はアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場権を手に入れていた。が、そこから4失点した。あの試合を経験したかどうかは全然違う。あそこから這い上がって今季に向かいたい」

2009年J1開幕直前、FC東京の城福浩監督はこう話していた。それだけジェフ千葉のJ1残留をアシストした2−4の逆転負けが脳裏に焼きついて離れなかったのだろう。その宿敵と4月18日のJ1第6節で再戦することになった。千葉は今季未勝利。昨年12月の時と同じように追い込まれていた。東京にしてみれば戦いにくい相手だった。

それでも彼らは立ち上がりから主導権を握った。12日の前節・鹿島アントラーズ戦で先発し、キレのある動きで攻撃の起点となった石川直宏が今回もグイグイと押していき、前半18分には巧みなドリブルから約20メートルのミドルシュートをキッチリ決めた。相手は巻誠一郎をターゲットにして攻めようとするが、その巻を佐原秀樹がしっかりとマーク。そのこぼれ球も拾わせなかった。どう考えても千葉には点の入りそうなムードが感じられない。前半は東京が確実に圧倒していた。

だが、選手たちは楽観視していなかった。「俺たちは2−0からひっくり返されて負けてるんだから気を引き締めて行こうとハーフタイムに話した」と羽生直剛も言うように、悪夢の再現だけは避けようと今一度、意思統一を図ったという。その言葉通り、試合は順調に進み、残り5分を切った時、突然のごとく歯車が狂いはじめた。

東京の2度目の悪夢の始まりは、途中出場した千葉の谷澤達也のスローインだった。これが上がっていたアレックスに渡り、いいクロスが中央に上がった。ここにペナルティエリアの外側から20メートル近く走ってきた巻が左足でシュート。これが決まってしまったのだ。巻の動きに佐原も他のDFも棒立ち。なぜか金縛りにあったかのようにボールウォッチャーになっていた。「これでいけると思った」と巻が言うように、この1点で千葉は完全に息を吹き返す。そしてロスタイムに同じくスローインから深井正樹と谷澤がワンツー。DFの背後に抜け出した深井が狙い済ましたように左足を振り抜く。5分足らずの間の逆転劇に、千葉の面々は喜びを爆発させ、東京の選手たちは呆然としていた。

城福監督は試合後の記者会見に仏頂面で現れた。激しい怒りが前面に出ていて、質問するのさえ、はばかられるほどだった。怒りが最高潮に達したのが、交代に関する質問が出た時だった。「戦術的なメッセージを伝えるためだった」と指揮官は話したが、果たしてその意図はきちんと伝わっていたのか・・・。

この試合で、城福監督は後半19分に石川→鈴木達也、24分に米本拓司→浅利悟、32分にカボレ→赤嶺真吾という交代をした。いずれも同じポジションの交代ではあったが、その順番が気になった。というのも、浅利を入れるというのは「1−0で守る」、赤嶺を入れるというのは「点を取りに行く」というメッセージにそれぞれ感じられる。実際、24分に浅利が出てきた時、「今日は早いけど、もう守りに入るんだな」と私自身は感じた。その後に赤嶺が入って来たので、ピッチ上の選手たちには「守るんじゃなかったの? 今から点を取りに行くの?」という混乱が少なからず生じたようだ。

実際、羽生も「交代した選手がしっかりとした守備のブロックを構成できていない時があった。変に崩されてしまっていた」と顔を曇らせた。長友佑都も「最後のところで意思統一できていなかった。特に点を取られた後。1−1になってからも勝つ気持ちで自分はやっていたけど、1−1で守りきろうという考えを持っていた選手もいた」と話す。結果的に複数の問題が生じ、最終的に意識のズレ、チームが空中分解してしまった発端が、残念ながら指揮官の選手交代だったように思えて仕方がない。

城福監督は昨季最終節でも調子のよかった羽生を下げて大竹洋平を起用。その選手交代がケチのつけ始めになってしまった。全ては結果論だが、どうも肝心なところで采配が裏目に出てしまうようだ。

情熱的な指導でU−16日本代表をアジア王者に押し上げ、2007年Uー17ワールドカップ(韓国)に出場させた実績は確かに素晴らしい。若い選手を抜擢し、自信をつけさせ、伸ばしていく手腕も評価されるべきだ。が、どうも選手起用と采配の部分は気になる。今季も「好調な選手を使う」というのはいいが、メンバーを入れ替えすぎるあまり、チームに確固たる軸がない。だからこそ、千葉戦のように突如としてピンチに追い込まれた時、チームがパニック状態に陥ってしまうのだ。

絶対に冒してはいけないミスを繰り返した今、チーム建て直しは容易ではない。城福監督が憂鬱な状態から抜け出せるのか。ここからの連戦が1つの正念場になる。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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