試合後の記者会見で、岡田武史監督は「ミーティングでは何も言わなかった。自分たちで状況判断して、すばらしい試合をしてくれた。集まるたびにチームになってきている」と語った。「オーストラリア」という名前に腰が引けていたような前の試合に比べて、たしかに「点を取りたい」という気持ち、積極性も目に付いた。そして後半、1点を取った後の攻守のバランスもよかった。「チームになってきている」のは確かである。結果的にも、1−0の勝利は満足すべきだろう。相手は攻撃をほとんど放棄して、守りに専念していたのだ。そう簡単に攻め崩せるものではない。幸運なゴールによるものとはいえ、勝点3を確保したことは素直に喜びたい。
だが、内容的にはとても満足できるものではなかった。積極性だけで点が取れるわけではない。
試合は、ボール支配率で61・5%を記録した日本が終始攻め続ける内容だったが、これは両チームの実力差を考えても、バーレーンが最初から守りに専念していたことを考えても、当然のこと。そこから、どう崩しきるかが課題だった。「外からアーリークロスを入れても高さのあるDFに跳ね返されるだけ。だから、中に起点を作って、スルーパスを狙っていこう」。これは、バーレーンが相手だからというよりも、岡田監督がずっと唱え続けている基本的なコンセプトだ。田中達也、玉田圭司、さらに大久保嘉人がDFラインの裏に飛び出していく。中に起点を作って、そこにパスを送る。それが狙いだった。
合理的な判断である。だが、問題は、そのパスが浮き球中心になってしまったことだ。フィンランド戦で、岡崎慎司が前半に決めたゴールのようなイメージだったのか。だが、この浮き球のパスは、バーレーンのセンターバック、アブドゥラ・マルズークとサイド・モハメド・アドナンにことごとく跳ね返されてしまった。日本のアタッカーは、いずれも身長がないから、ヘディングの競り合いでは勝負にもならない。中央からのパスだから、DFとしては正面から来るボールを、相手と競ることもなくヘディングでクリアしていればいいのだ。これでは、崩せるわけはない。
そこで重要になるのが、攻撃に変化を付けることだ。いくつかの方法が考えられる。
まず1つは、パスを浮き球ではなく、グラウンダーの速いボールに切り替えることだ。相手のDFは、高さはあるが、足下での速いパスには弱いはずだ。前半の30分過ぎくらいから、いくつか作ったチャンスは、ほとんどがこういう形でのワンツーだった。後半も、ハーフタイムでの岡田監督のアドバイスもあって、そういう形からのチャンスを作れた。だが、もっと早く、選手たちの判断で切り替えることができたのではないだろうか。
高さのある守備ラインを崩しきるもう1つの方法としては、サイドをえぐってゴールライン付近まで持ち込み、マイナスのボールを送ることだ。相手が、ボールウォッチャーになって、ゴール前でフリーの選手が生まれるはずだ。右の内田篤人へのパスが通り、内田がフリーになる場面が前半だけで2度ほどあった。だが、この日の内田は、ゴール前でも、サイドでもあまりにコントロールミスが多く、そのうち自信すら失ってしまったように見えた。後半、フリーになったシュートがバーに嫌われたように、この日の内田にはツキもなかった。しかも、中村俊輔が中に入ってプレーする場面も多く、これまで、日本代表の攻撃の中心だった右サイドの突破がバーレーン戦では見られなくなってしまっていた。左サイドの攻撃はこれまでの試合でも「課題」だったが、昨年後半からどの試合でも有効だった「右」までが機能しなかったのは、想定外のことだ。さらに、引いて守っているディフェンスを引っ張り出すための常套手段であるミドルシュートにトライする選手は皆無。これも、オーストラリア戦の反省だったはずなのに……。
つまり、「中央をパスをつないで崩す」という基本コンセプトに縛られて、攻めの多彩さが足りなくなってしまったのだ。基本コンセプトは大事にしながらも、攻撃ではそれぞれのアイディアを出し合って、相手を見て、いろいろな攻め方を組み合わせていく。それが、次の課題だろう。
攻め崩してゴールを奪うには、あと2つ方法がある。1つは、ゴール前でのプレーの精度を上げることだ。15分に、左から田中達の入れたボールが玉田に渡った場面、玉田がワンタッチで正確にコントロールできていれば、得点が生まれたかもしれない。55分、カウンターからの攻めで、遠藤保仁が入れたクロスに反応して飛び出した内田は、完全にフリーでボールを受けたがコントロールミスで相手GKにボールを渡してしまった。ゴール前での正確なコントロールとシュート。これができれば、もちろん、得点力は大幅にアップする。ただ、これは今から努力したとしても、そう簡単に改善できるものではない。最終的には、そういうプレーができる選手を育てていくしかないのだが、とにかくこれからワールドカップ本大会までの1年、少しでも精度を上げるための努力を続けていってほしい。
そして、最前線で浮き球に対して競っていける上背のある選手の必要性も痛感した。なにも、そこで競り勝ってヘディングシュートを決めてくれなくてもいいのだ。いや、競り合いで勝つ必要すらないのかもしれない。ただ、高いボールに競り合ってくれれば、そこでつぶれてもいいのだ。競り合いの中からこぼれ球ができるだけでも、攻撃のバリエーションは増えるはずだ。そういうタイプとして矢野貴章が招集されたが、バーレーン戦ではベンチ外。最後の時間帯に岡崎も投入されたが、これは前線での守備を期待されての起用にすぎなかった。日本には、やっぱり巻誠一郎が必要なのかもしれない……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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