ACLの初戦で水原三星にまさかの大敗を喫した鹿島アントラーズが、Jリーグ第2節でアルビレックス新潟にも敗れる波乱。一方で、ガンバ大阪はしっかりとスタートダッシュを決めた。そして、第2節ではフォルカー・フィンケ新監督を迎えた浦和レッズが、ホーム開幕戦でFC東京を破って初白星。昨シーズン、苦しい1年を過ごしたレッズにとって、ようやく光明が見えた瞬間でもあった。

もっとも、この試合の勝利は「FC東京の自滅」でもある。前半開始早々の4分にCKでの守備のミスから阿部勇樹が簡単に先制ゴール。これによって、浦和は「1点リード」という優位に立って試合を進めることができたのだ。そんな貴重な先制ゴールによるリードも、わずか9分しか続かない。13分、左サイドから徳永悠平に入れられたクロスにあわせたカボレにあっけなく同点ゴールを許してしまう(公式記録ではオウンゴール)。

しかし、後半も3分という時間に、またしても淡白すぎる東京の守備を突いて、ポンテの右クロスをエジミウソンが決めて、後半も再び「1点リード」の状況で試合を進めることが出来たのだ。1点をリードした浦和は、57分に先発出場した原口元気に替えて高原直泰を入れる。それまでのエジミウソンと田中達也のツートップ(右MFにポンテ、左MFに原口)を、高原とエジミウソンに加えて、左の田中、右のポンテと、まるで4トップのような形に変えた。

しかし、高原にはキレがなく、また、4人のアタッカーが前線に張ったために後方からの押し上げもなくなり、スペースを消しあった形で有効な攻めの形が作れなくなってしまう。高原を投入したときに、なぜポンテをMFに下げずに、右に張らせたのだろうか?1点をリードしていたわけだから、アタッカーを並べる必要もなかったはず。意味の不明な交代だったといわざるを得ない。高原投入前は、原口がトップに顔を出したり、トップ下に入ったりして、パスの交換に参加して攻撃のリズムを作っていたのだが、それも消えてしまった。

そして、皮肉なことに再び攻撃のリズムが生まれたのは、78分に田中達に代わって山田直輝が入ってからだったのだ。ダメ押しとも言える3点目も、左から攻め上がった坪井慶介のからのボールを受けた山田直が、冷静に右サイドのスペースに入り込んだポンテにパスを送った好アシストによるもの。若い原口を90分使えないのは分かるが、それなら原口から山田直に直接代えてもよかったのではないか。フィンケ新監督が標榜するパスをつなぐコンビネーション・サッカーは、どうやら若い原口や山田の世代の成長を待つしかないのかもしれない。

フィンケ監督のコンビネーション・サッカー、たしかに片鱗は見て取ることもできる。最終ラインから中盤にかけては、ワンタッチでのパスがつながる場面も随所に見られ、選手たちが新しいやり方に挑もうとしている姿勢も見て取れる。だが、肝心のアタッキングサードでは、まだまだ試行錯誤である。最後のフィニッシュにかかるこのゾーンでは、パスをつないでいるだけではいけない。コンビネーション・サッカーを目指しつつ、ドリブルやキラーパスで挑みかからなければ、守備の網は破れるものではない。パスをつなぐのか、自ら仕掛けるのか、その判断が難しいところ。そして、正確な判断を下すことは、コンビネーション・サッカーに習熟していかなければ、なかなか難しい(原口や山田直が活躍できるのは、彼らはユースでそういうパスをつなぐサッカーに慣れていたからなのだろう)。

こうして見てくると、フィンケ監督の目指すサッカーが完成し、強い浦和が帰ってくるのには、まだまだ、時間がかかると思った方がいいようである。それは当然のことだろう。「監督が変わりました。トレーニングをしました」。それだけでチームが完成することなどとは、誰も期待していないはずだ。問題は、それが半年先なのか、1年先なのか、あるいはもっと時間がかかるのかということなのだ。

イビチャ・オシム監督が就任して、ジェフ市原(千葉)のサッカーは大きく変わった。だが、オシム監督が就任した最初のシーズンのジェフでは、選手たちが「走らなければ、走らなければ」と、苦労しているのが見て取れた。無意識のうちに足が動き始めて、流れるような攻撃が毎試合のように見られるようになったのは、オシム監督就任から1年半くらいも経ったころだったのではないだろうか?フィンケ監督の目指すもの(これも、まだ、よく分からない部分も多いのだが)が完全に身について、新しい浦和レッズのサッカーが確立されるまでには、やはり1年程度はかかると見ておいた方がいいだろう。

問題は、「それまで待てるのか?」ということだ。

ジェフの場合は、なにしろ、低迷を続けていたチームだった。クラブも、選手たちも、サポーターたちも、早急にタイトル獲得などを望んではいなかっただろう。だから、彼らは待つことが苦にならなかった。だが、浦和レッズは、すでにいくつものタイトルを獲得したビッグクラブである。「新しいサッカーが姿を現しつつある。しかし、タイトル争いにはからめない」。そんな状況にどれだけの時間耐えることができるのだろう?クラブは、「今シーズンはベースを作る時期だ」と言っている。待つつもりなのだろう。では、サポーターは、それを待つことができるのか?そして、選手たちは、それを待てるのか?

今の段階では、選手たちは新しい監督のやり方に納得して、コンビネーション・サッカーに挑戦しようとしているのは間違いない。だが、結果が出ない状況が続いたとすれば、選手の中にはフィンケ監督のやり方に疑問や不満の気持ちも生まれてくるかもしれない。教師のような容貌のフィンケ監督。ギド・ブッフバルトやゲルト・エンゲルスのように、選手たちの中に入って行くような接し方はしない人物のように見受けられる。そうしたやり方によって、彼が、選手たちを納得させて、ずっと「その気」にさせておくことが出来るかどうか。その説明能力がすべての鍵を握りそうである。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授