08/09シーズンのアルペンスキー・ワールドカップも、残すところ最終戦のみになった。会場はオーレ。2007年には世界選手権の舞台ともなったスウェーデン最大のスキーリゾートだ。現在ではレヴィ(フィンランド)にその座を譲ったが、オーレは、数年前まではワールドカップのレギュラー会場として最北のスキー場だった。北緯63度30分。“The jewel of the Swedish mountains(スウェーデンの宝石)”と称される優雅な山容を誇る。標高差980m、全コースを合わせた滑走距離は90kmに及ぶ。周囲は美しい森と湖に囲まれ、もちろん豊富で良質な積雪も自慢の高級リゾートである。

ワールドカップ最終戦は、男女各4種目(ダウンヒル、スーパーG、ジャイアント・スラローム、スラローム)が行なわれ、さらに最終日にはチーム戦も開催される。さながらミニ世界選手権と呼ぶべき規模で、文字通りシーズンを締めくくる重要な大会である。しかし、今シーズンは残念ながらこの最終戦に日本選手は誰も出場しない。各種目のワールドカップポイント・ランキング上位25人という規定をクリアできなかったからだ。スラローム第9戦(クラニスカ・ゴーラ)を終えた時点での日本選手のランキングは、湯浅直樹(スポーツアルペンSC)37位、佐々木明(PJMSC)49位、皆川賢太郎(チームアルビレックス新潟)59位といずれも低調。最終戦が現在のシステムとなったのは99/00シーズンからだが、日本選手が誰も出場資格を得られなかったのは、01/02シーズン以来7年ぶり3度目のことだ。

この歴史的な惨敗を受けて、日本チームはすでに来季に向けたスタートを切っている。皆川賢太郎はクラニスカ・ゴーラのスラロームをスキップして日本に帰国。FISポイントの更新を狙ってファーイーストカップ(ワールドカップのひとつ下のカテゴリー)のジャパンシリーズと全日本選手権に出場した。スラローム計4レースに出場し3戦で優勝。そのうち2レースで8点台のFISポイントを獲得したので、来季のワールドカップでのスタート順もかなり早くなりそうだ。

また佐々木と湯浅はヨーロッパに残ってFISレース等を転戦。全日本選手権終了後にふたたびヨーロッパに戻る皆川とともに、ヨーロッパカップのスラローム最終戦(3月14日/スイス/クラン・モンタナ)に臨む予定だ。

さてオーレの最終戦に話題を戻そう。最終戦ではレース自体の戦いももちろん興味深いのだが、それ以上に注目されるのはやはりタイトル争いだろう。長いシーズンを戦ってきた末に、果たして誰がワールドカップの総合優勝、あるいは各種目別優勝のタイトルにたどり着くのか?とくに今季の男子はまれに見る激戦が繰り広げられているだけに、最終戦の最終レースまで緊迫した展開となるにちがいない。

現時点で総合優勝を争うのは、アクセル・ルンド・スヴィンダール(ノルウェー)、ベンジャミン・ライヒ(オーストリア)、ディディエ・クーシュ(スイス)、イヴィッツァ・コスタリッチ(クロアチア)。ジャン・バティスタ・グランジェ(フランス)にも計算上のチャンスは残されているが、その可能性は非常に小さい。やはり前述の4人に絞られたと言ってよいだろう。4人のなかでは誰が勝ってもおかしくない。スーパーG、ジャイアント・スラローム、スラロームを残す現段階でスヴィンダールが929点でトップに立ち、以下ライヒ857点、クーシュ843点、コスタリッチ837点というランキング。ポイントリーダーのスヴィンダールが有利なのは当然だが、そのポイント差は1レースで簡単にひっくり返る。予断のまったく許されない状況は、ファンにとってもとてもエキサイティングだ。

ポイント争いが混戦模様なのは、スラロームも同様で、481点でリードするグランジェを432点のコスタリッチが追う。コスタリッチがその差49点を逆転するには、最終戦で最低でも4位入賞が条件だ。ただしその場合でもグランジェが15位以内に入れば、グランジェが初の種目別チャンピオンに輝く。1月末に痛めた腰がまだ本調子ではないだけに、先行するグランジェをとらえるのはかなりむずかしいだろう。このように計算上ではグランジェがかなり有利ではあるが、彼にも不安要素がないわけではない。昨シーズンは今季同様最終戦を前にスラロームのポイントランキングで首位を走りながら、土壇場でマンフレッド・メルク(イタリア)に逆転され苦杯をなめている。今季も前半こそ快進撃を演じたものの、シーズン後半は表彰台から遠ざかっており、49点の得点差も安全圏とは言いがたい。一瞬のミスが命取りとなるスラロームだけに、勝負は最後までもつれることだろう。

さらに、無視できない存在が3位につけるマンフレッド・プランガー(オーストリア)だ。今季のプランガーは精神的な弱さが目立っていたかつて彼とはまったくの別人。大荒れのヴァル・ディゼールを制しヴァル・ディゼール世界選手権のスラローム・チャンピオンに輝いたことでもわかるように、ここ一番での勝負強さは侮りがたい。おそらく最終戦での彼は、1位以外はいらないという気迫で滑るはず。そのプレッシャーによって上位ふたりがもたつくようなことがあれば、大逆転が起こる可能性も充分に考えられる。

いずれにしても、最終戦ならではの駆け引きによって、レースはいつも以上に緊迫するはず。日本選手が出場しないのは寂しい限りだが、そんなポイント争いにも注目しつつ、今季最後のワールドカップ・スラロームを楽しみたいものだ。

【写真1】オーレはスウェーデン最大のスキーリゾート。変化に富んだコースは全長90kmにも及ぶ

【写真2】澄み切った寒気の中に出現した虹の柱。太陽を中心に2本の虹が左右対称に並んだ

【写真3】オーレ世界選手権のスラロームで3位となったジャン・バティスタ・グランジェ。このときはまだそれほど注目される選手ではなかったが、翌2008シーズンに大ブレイクした

【写真4】同じくオーレ世界選手権のときのイヴィッツァ・コスタリッチ。2本目で途中棄権に終わっているが、果たして今季最終戦ではどんな滑りを見せるのだろうか

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田草川 嘉雄
白いサーカスと呼ばれるアルペンスキー・ワールドカップを25年以上に渡って取材するライター&カメラマン。夢は日本選手が優勝するシーンをこの目で見届けること。
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