2009年Jリーグ各クラブの始動も間近に迫っている。が、昨年末に大量に解雇された30歳以上のベテラン選手の移籍先がほとんど決まっていない。2006年ドイツワールドカップ日本代表だった福西崇史、土肥洋一(ともに東京V)を筆頭に、同じくジーコジャパンの中核だった田中誠(磐田)と、実績のある多くの選手が行き場を失っているのだ。田中の場合は磐田がコーチとしてのオファーを出しているといわれ、事実上の引退勧告を受けている状態という。同じ状況で2002年日韓ワールドカップのキャプテンだった森岡隆三(京都)も引退、コーチ転身の道を選んだ。田中の場合はどうなるのか分からないが、前途多難であることは間違いない。

いずれにしても、日本サッカー界は「30歳」が1つのハードルになっている。30歳を過ぎた途端、「力が落ちてきた」「スピードやフィジカルがダウンした」と判断され、戦力外となるケースが後を絶たない。まるで「30歳定年制」が目に見えないところで設定されている印象だ。しかし欧州を見れば、36歳のネドベド(ユベントス)、35歳のインザーギ(ミラン)、ギグス(マンU)など30代半ばでもトップレベルで活躍する選手は少なくない。こういった選手たちもケガなどによる離脱はあるものの、クラブや指揮官との厚い信頼があり、戦力外に追い込まれることはなかった。なぜ日本は「ベテラン冷遇」の傾向が強いのか。1つの要因として考えられるのが、頻繁すぎる監督交代だ。長期政権のガンバ大阪や鹿島アントラーズを除き、毎年のように指揮官がコロコロ代わるクラブが多い。そうなれば、必然的に選手も入れ替わる。新しい監督は手垢のついたベテランより、安くて言うことをよく聞く若手を好む。高年俸選手を少しでも減らしたいクラブ側にとってもその考え方は理想的だ。このため、まだ使えるベテランがどんどん切られてしまうのだ。

日本経済の低迷による財政事情の逼迫化も流れに拍車をかけている。遠藤保仁(G大阪)の実兄で、2007年シーズンで現役を引退した遠藤彰弘氏と先ごろ話をする機会があったのだが、「僕らが横浜F・マリノスで2年連続優勝した2003〜2004年頃に比べると、ベテランが戦力外にされる年齢が2〜3歳下がっている。それも経営面の問題が大きく影響していると思う」と話していた。確かに、2008年シーズン終了後には、日産自動車が横浜の出資比率引き下げを検討していることが明らかにされ、トヨタ自動車も名古屋グランパスの支援額を減らすと報じられた。2007年度の営業収益が約80億円に達した浦和レッズでさえ、2008年の売り上げが10億円減少。岡野雅行のように長年チームを支えてきた選手たちが解雇された。そんな状況だから「まずは年俸の高い年長者を切る」というのが、経営側の鉄則なのだろう。

けれども、本当にベテラン選手は使えないのか。昨季のJリーグを見ていても、31歳の柳沢敦(京都)で14得点を挙げて日本人得点王に輝いたり、同じ学年の明神智和(G大阪)がFIFAクラブワールドカップ(FCWC)や天皇杯終盤戦で目覚しい働きを見せている。33歳の鈴木秀人(磐田)もケガで苦しみながら、ベガルタ仙台との入れ替え戦で気迫あふれる守備で相手を止めた。彼らのパフォーマンスは間違いなく見る者のハートに響いた。「長年の経験」があるからこそ、ここ一番で圧倒的な力を出し切れるのだろう。そういう功労者を軽視する風潮は日本代表にもある。昨季限りで東京ヴェルディから戦力外通告を受け、現在は就職活動中の広山望も「昨年の柳沢や明神を見ていれば、まだまだインターナショナルレベルであることは誰にもわかる。そういう選手が再び日本代表に呼ばれれば、ベテランの価値も見直されると思う。だからこそ現状が残念だ。日本代表の急激な若返りはJリーグの『ベテラン冷遇』の傾向に拍車をかけているところがあるように感じる」と話していた。

岡野が現役続行を希望して香港リーグに挑戦する意向を示し、広山も再び海外挑戦の可能性を示唆するなど、彼らは彼らでサッカー人生のラストを納得いく形で締めくくろうとしている。そういう場をもっときちんと用意してあげることも、発足から17年目を迎えるJリーグの責務ではないだろうか。現在、高校サッカー選手権が行われている。話題の鹿児島城西高校の大迫勇也(鹿島内定)や大迫希(熊本内定)ら何人かの選手がプロの門を叩くが、30歳を過ぎたらクビを切られるのが当たり前という不安定な環境であれば、彼らも希望より懸念の方が大きいのではないだろうか。そんな夢のないJリーグだと明るい未来はない。このあたりも真剣に考えていくテーマの1つだろう。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。