年末年始にかけて、気になる審判の判定を見かけた。

一つは、大晦日に行われた全国高校選手権1回戦。帝京高校対広島皆実高校の試合。前半、16分に皆実ゴール前、ペナルティーエリアの外での競り合いで反則を取られた皆実のDF松原拓也が退場になった判定。もう一つは、元日の午前に行われた全日本女子選手権決勝で、ペナルティーエリア内で日テレ・ベレーザの荒川恵理子を倒したINACレオネッサの山岸靖代が退場になった判定である。ともに、この判定が試合を壊してしまった。

もともと守備力に定評のある広島皆実は、人数が少なくなった後は、より守備的に戦わざるをえなくなり、結局攻撃を続けた帝京も最後まで得点を奪うことが出来ず、PK戦の末に広島皆実が勝ち進んだ。早い時間(退場は17分)の退場によって、おそらく帝京にとっても、その後の試合の進め方が難しくなってしまったのではないか。女子の試合の場合、すでに実力に優る日テレ・ベレーザが1点をリードしている場面であり、退場とともにPKをゲットした日テレ・ベレーザが2点目を決めて、この時点で事実上勝敗の行方は決まってしまった。どちらの場合も、退場となったのは、DFのプレーが「得点機会の阻止」と見なされたからである。誤解しないでもらいたいのは、僕が問題にしたいのは、レフェリー個人の判断についてではない。「ルールそのもの、あるいは判定の基準が厳しすぎるのではないか」と言いたいのである。反則自体は、どちらも普通の(「とくに悪質だったり、危険だったりしない」という意味で)反則だった。

広島皆実の松原の退場の場合、ゴール前で両者がもつれ合って倒れたのはスタンドからも見て取れたが、僕は笛がなった瞬間に「どちらの反則だろう?」と思ったくらいの微妙なものだった。INACの山岸の退場の場合、トリッピングの反則だったことは明白。PKの判定も当然だったが、それが一発退場に値するものだったとは見えなかった。帝京の選手が、フリーになって抜け出していたわけではなく、ゴール前で競り合っていた中での反則だったのだ。けっして「決定的得点機会」といえる状況ではなかった。日テレ・ベレーザの荒川は、たしかに完全に抜け出していて、得点機会だったのは明白だが、山岸のタックルは反則覚悟で敢行したファウルではなく、タックルが遅れてトリッピングになってしまったように僕には見えた。反則を犯した位置がペナルティーエリア内でなく、中盤でだったら、フリーキックは与えられただろうが、カードは出なかったはずだ。

「決定的得点機会の阻止」という言葉は、「反則を犯さない限りとめることが出来ないような場面」を指すのではないか? そして、「そういう場面で意図的に反則を犯した選手を退場にすべきだ」というのが、この規則の「法の精神」、あるいは「立法者の意思」だったのではないか?つまり、ゴール前での反則をすべて「決定的得点機会の阻止」と見なすのは、法の拡大解釈なのではないか?そもそも歴史を遡れば、ペナルティーキック(PK)だって、「決定的得点機会の阻止」のために反則を犯した場合の極刑として導入されたのではなかったか。「PKを与えた上に1人退場」というのは、考えてみれば、そうとうに重い処罰なのである。そして、「退場という処罰によって誰が損をするのか?」ということも考えてみるべきだろう。

もちろん、退場を犯した選手個人にとっては大きな処罰となる。また、その選手が所属しているチームは、その試合で敗れる可能性が大きくなるだけでなく、当該選手が次戦も出場停止になり、他の選手に負担がかかり疲労度が増すなど、たしかに処罰となっている。だが、損害を受けるのは当該の選手やチームだけではない。つまり、高額の入場料を払って試合を見に来ているファンやサポーターも損害を受けるのである。退場で1人少なくなってしまった試合。人数が減ったチームが守備を固めてしまう。それでは試合を楽しめないだろう。あるいは、女子決勝の場合のように、2-0でリードされているチームが1人少ない状態では、勝敗の興味は薄れてしまう。しかも、退場処分を受けた選手は次の試合に出場停止になるから、次の試合を見に来るために前売り券を買っていた観客にとっても損害になってしまう。つまり、「退場」のカードは、やたらに切るべきではないのではないか!

もちろん、相手に重傷を負わすような危険な反則など、どうしても極刑が必要な場面では退場という処分も必要だろうが、つまらない警告(たとえば、ゴールのパフォーマンスで看板を飛び越えたとか……)2回で退場にする必要もない。高額な罰金でも、罰則としては十分だろう。警告の累積による出場停止だってそうだ。そんなことでスター選手が出場できないのでは、その選手を目当てに入場料を払った観客にとっては大きな損害になる。これを防ぐには、警告を受けた後、たとえば8試合とか、10試合とか、警告を受けずにプレーすれば、最初の警告を取り消すことによって(つまり、一種の時効だ)、出場停止を回避できるようにできないものか。

そもそも、警告のイエローカード(その後、普通にプレーを続けることができる)と、退場のレッドカード(その試合および次の試合でプレーできなくなる。広島皆実の松原選手は高校3年生だったら、もうそのチームで二度とプレーできなくなるかもしれなかった)との間に、刑の重さに差がありすぎるのも問題ではないか。レフェリーにとっても、レッドカードを出すことが、心理的に大きな負担になることだろう。これを解決するには、イエローとレッドの間に、たとえば10分間退場のオレンジカードといった中間的な罰則(ラグビーのシンビン)を導入すべきではないだろうか。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授