マンチェスターU相手に3−5という壮絶な打ち合いを終えて、会見場に姿を現した西野朗監督は悔しそうだった。FIFAの役員に「素晴らしい内容の試合だった」と言われ、「そう言っていただけるのは社交辞令だろう」と言って、「残念」という言葉を連発した。外国人記者から「面白い試合だった」と言われると、はっきりと「面白いとは思っていない」と言い放つ。

西野監督は、最後まで、「残念だった」というスタンスだった。

それはそうである。試合に負けたのである。「面白い」、「素晴らしい」といわれれば余計に悔しさが倍増する。日本人は、どうして、G大阪がマンチェスター・ユナイテッドに3−5という大敗を喫したのに、「健闘」とか「素晴らしい」という言葉を使えるのだろうか? マンチェスター・ユナイテッドをリスペクトしすぎではないか!

記者席でもそうだった。

CKから2失点し、反撃の糸口もつかめないような展開となった前半。記者席のあちこちから嘲笑の言葉が飛び交うようになったのだ。「どうせ、マンチェスター・ユナイテッドは本気ではない」「全然、通用しないじゃないか」と、ヨーロッパ通、サッカー通を気取る記者からは、楽しそうな笑い声までが聞こえてくる始末である。

たしかに、前半は完敗の内容だった。

立ち上がりに、相手が様子を見ている時間帯には安田理大などが果敢に攻め込んでシュートを放つ場面もあったが、20分も経過すると、相手が守備組織を構築し、自陣に20メートルくらい入ったところに守備ラインを設定。すると、G大阪はほとんど攻め手がなくなってしまったのだ。その差は大きかった。しかし、G大阪がこれだけ封じ込められてしまったということもやはり悔しがることであって、嘲りの声を上げるべきことでもなかろうに……。そして、G大阪を嘲笑するのが間違いであるのと同時に、勝負に敗れたチームを称賛することもまた誤りである。

後半はたしかにハデな点の取り合いをした。遠藤の強烈なFKをGKのファンデルサールが辛うじて弾く場面もあった。そして、遠藤がそのファンデルサール相手に“コロコロPK”を決めた場面もあった。だが、G大阪は、山崎雅人が1点を返した直後にルーニー、フレッチャー、ルーニーと3連続失点を浴びる。3点とも、圧倒的なスピードに守備の組織が破られ、ゴール前で意外性のあるパス交換を許し、そして個人の駆け引きでも完敗という屈辱的な3連続失点だった。つまり、「マンチェスターUが本気になったら何点でも取れますよというような強烈な警告のような攻めだった。

やはり、称賛するよりも、本気で悔しがるべき試合だった。

しかも、多くの称賛が集まったように、G大阪はただ単に「普段の通りに、ガンバ・スタイルで勝負を挑んだ」わけではない。二川孝広と佐々木勇人がアデレードとの準々決勝で負傷し、二川はベンチにいるが、すぐには出場が危ぶまれる場面。佐々木は大阪に帰ったきりだ。ほとんど交代選手もいない。マンチェスターUに挑みかかったのは、そんな状態のガンバ大阪だったのである。実際、マンチェスターU戦で、西野監督は交代を1人しか使わなかった。いや、ベンチにいる選手の顔ぶれを見ても、なかなか交代はしづらいようなもの。

それでも、西野監督は勝つための戦術的な工夫をした。

それが、播戸と山崎のツートップだった。そして、2列目には左にルーカスが入り、遠藤はボランチに下がり、右にはなんとボランチが本来のポジションである橋本英郎が入った。「遠藤にはプレッシャーのないところで、ボールを配給させたい。同時に右サイドの活性化もできる」というのは西野監督。実際、この2人がじつによく機能したのである。つまり、乏しい戦力の中で、西野監督は勝つための駆け引きを行っているのである。けっして、「いつものままのサッカー」でぶつかっていった玉砕ではないのだ。

実際、マンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督も、「遠藤が中盤の低いところにいて、FWだと思っていたルーカスが2列目にいるのは、意外でもあり、準備とは違っただけに苦労した」と語る。西野監督に対する記者会見では、「CKからの2失点はメンタル的な弱さか?」といったよく分からない質問や、ゲームプランを尋ねるような質問が相次ぐ。それで、もっと普通の試合のときと同じような質問をしてほしかったのだ。そこで、僕は「遠藤のボランチと橋本の右ワイドMF起用の理由」について尋ねたのだった。ふだんのJリーグだったら、記者たちはそろってそういう質問をするものだが、この日は、そういう普段着の質問もすっかり出なくなっていた。

もちろん、まだまだ、本気でマンチェスター・ユナイテッドに勝負を挑み、負けたら、あるいは5失点もしたら、本気で悔しがるという時代ではない。だが、いつかは、相手が世界のどんなメガクラブであろうが、本気で勝負を挑み、負けたら本気で悔しがる。そんな時代にしていかなければならない。

そういう、世界のトップに本気で挑む日がいつか来ることを祈りたい。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授