日本サッカー協会の犬飼会長が、就任以来次々とアドバルーン的な発言をして論争のタネを撒き散らしている。それに対して、Jリーグの鬼武チェアマンが勇ましい反論を返すものだから、ネタ不足のスポーツ新聞には恰好の材料となって「犬と鬼」が面白おかしく取り沙汰されている。

前会長時代の上意下達方式、つまり、上から決定が下りてくるだけで、下からは何も言わない(言えない)方式よりはずっとマシだろう。少なくとも、決定の前に議論、論争がオープンになるのはとても良いことだ。天皇杯の「ベストメンバー問題」は、大山鳴動してネズミも出てこなかったが、ああいう論争的な発言を意図的にコントロールしているのなら、犬飼会長というのはなかなかの大人物ということになる。感情の赴くままに任せて発言しているのなら、これはちょっと……なのだが。

さて、犬飼会長の最大の狙いが「Jリーグの秋春制」らしいのは衆目の一致するところだ。天皇杯問題にしても、「ベストメンバーで戦えないのはシーズン制に問題があるから」→「だから、シーズン制を変えましょう」という流れで読むのがいちばん納得がいく(ベストメンバー規定も作らないことになったとすれば、他に意味のある発言だったとは思えない)。

「秋春制」のメリットとしては、いろいろ言われる。

夏の暑いときに試合をすべきではない。雷もあって安全が保証できない。野球等との競合がなくなる……。その他、メリットはいろいろ言われている。しかし、なぜ「秋春制」にすべきなのか、主たる根拠は、「Jリーグのシーズンをヨーロッパと同じにした方が、移籍問題やインターナショナルマッチデーの問題でクラブ経営や試合日程の作成がスムースになる」ということに尽きるのではないか。

その他の論拠をいろいろ持ち出すのは、あまりフェアではない。

もちろん、反対派もいろいろな論拠を持ち出してくる。会計年度とのズレ。社会人・学生チームとのシーズンのズレ(新人選手の入団がシーズン途中になる)等々だ。だが、こちらも、余計な論拠を言い立てるべきではない。反対論は、要するに「寒冷地や降雪地帯で冬場に試合ができるのか? 観客動員が望めるのか?」ということに尽きる。

この点をはっきりさせないと、議論は混乱する。

たしかに、サッカー(フットボール)は、もともと冬のスポーツである。晩秋になって、クリケットのシーズンが終了すると、フットボールのシーズンが始まるのだ。19世紀半ばまでの話だ。それが、徐々に試合数が増え、ヨーロッパでも、今では8月にはシーズンが始まって、翌年の6月前半まではやっているようになった。ヨーロッパは、地理的には日本よりも緯度が高い。フランス南部のリヨン市の地下鉄にリヨンと同じ緯度で輪切りにした世界地図が描かれている駅があるのだが、それを見るとリヨンはサハリン(樺太)と同じ緯度なのだ。

先日、カタール戦の後、僕はイタリアでインテル対ユベントス、トリノ対ミランの試合を見てきたが、帰国の朝(12月4日)の北イタリアはすっかり雪景色だった。そういうヨーロッパでも冬に試合をしているのだから、もっと南にある日本でもできるように思うかもしれない。だが、メキシコ湾流という大西洋を流れる暖流のおかげで、ヨーロッパはサハリンほどは寒くはなく、札幌などはヨーロッパの中でもかなり寒い地域と同じ気温である。また、新潟や山形は、気温としては寒くはないだろうが、あれほど雪の降るところはヨーロッパでは山間部を除いてないのではないか。

気温としては、摂氏0度が目安になる。

気温が氷点下になると、ピッチもボールもシューズもあらゆるものに含まれる水分が氷結する。そうすると、ボールの弾み方、ピッチの滑り方などが、すっかり変わってしまって、まともな試合ができなくなる。ケガの心配も大きくなる。そのことは、11月から12月のUEFAチャンピオンズリーグを見れば分かるだろう。11月下旬にロシアやベラルーシで行われた試合がどんな状態だったか、思い出してほしい。さいわい、ゼニトやBATEボリソフがグループリーグ敗退となったからよかったが、勝ち抜いて2月にあんな場所で決勝トーナメントが行われたら、アウェイチームはどうなってしまうのだろう!

札幌の冬は、氷点下10度くらいまで、簡単に下がってしまう。新潟や山形で本格的に雪が降れば、これは試合は不可能だ。札幌のスタジアムはドームだから冬季開催も可能だろうが(天然芝では無理だが)、寒さに耐える室内練習場を作るのにどれだけの費用がかかるものか……。北国にはJリーグクラブは要らない、あるいは北国のチームだけで別リーグを作るとでもしないことには、「秋春制」にはデメリットが大きい、あるいは大きなコストがかかるということは明らかだ。

それに見合うだけの大きなメリットがあるのなら、Jリーグが(たとえば、totoの収益金でも使って)費用を負担してでも「秋春制」を実施してもいいが、果たしてヨーロッパのシーズンと合わせることに、どれだけのメリットがあるのか?

僕は、「秋春制」移行にはデメリットが大きく、それに見合うだけのメリットはないように思う。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授