3点を奪っての快勝となったカタール戦。これまで、日本代表に対しては、「FWの得点がない」とか「流れの中の得点が少ない」と批判されていたが、カタール戦ではツートップの田中達也と玉田圭司の2人が1ゴールずつを決めた。しかも、どちらも流れの中からのゴールだった。だが、僕は、この試合の最大の注目点は攻撃ではなく、守備面にあったと思う。
もともと、この試合は守備の不安が大きかった。
中村俊輔の負傷というニュースも飛び込んできたりしていたが、中村はテーピングをしながらもセルティックでも強行出場を続けて、カタール戦に間に合わせてきた。しかし、守備ではGKの楢崎正剛とDFの中澤佑二が欠場となった。GKは、川口能活という、楢崎と同レベルで経験も豊富な「代役」(失礼!)もいる。だが、守備ラインの中心だった中澤の穴は埋めようもないものだ。岡田武史監督は代表監督就任以来、バックアップのDFを発掘すべく、何人ものストッパーを招集していたが、決定的な候補者は見出せないでいた。このところ代表に招集していた寺田周平の高さか、本来はMFであるが、それともオシム監督時代から最終ラインで使われており、経験のある阿部勇樹かの二者択一だったが、岡田監督は寺田を選択した。
だが、寺田はワールドカップ予選は初出場だったし、前週にあった親善試合のシリア戦でのできもパーフェクトとは言いがたく、前半だけで交代している。 しかも、カタールにはアジア屈指のセンターフォワード、セバスチャンがいるのだ。不安は、選手たちも当然感じていたことだろう。対策としては、セバスチャンにいいボールが入らないようにすることである。前線からの守備が重要になる。
ツートップの玉田と田中達は、相手のDFに対して激しくプレッシャーをかけ、少しでも球出しを遅らせる。相手のMF(いわゆるボランチ)はボールさばきが遅いから、ある程度持たせてもいい。だが、カタールのアウトサイドには右にイスマエル、左にファビオ・セザールと強力な選手がいるから、ここは両サイドバック内田篤人と長友佑都とサイドのMFが頑張るしかない。そして、セバスチャンとトップ下のハルファンにボールが入ったときには、ボランチ(遠藤保仁、長谷部誠)、そして、ストッパーの闘莉王と寺田で挟み込んで守る。
これが、守りの方程式だった。そして、それを選手たちは完璧に遂行した。
前半の立ち上がりこそ、フルパワーで来るカタールに押し込まれた時間帯もあった。これは、どのレベルの国際試合でもよくある光景だ。相手が、スプリント系、無酸素運動系のパワーを使って攻め込んでくる立ち上がりに攻め込まれ、失点を喫するというのは、日本チームの一つの負けパターンでもある。この時間をいかに耐えるかが課題なのだ。カタール戦では、イスマエルとのマッチアップで、長友が奮闘し、ボールを奪って反撃の形も作ることができた。また、セバスチャンとハルファンのコンビネーションに対して、長谷部などが体を張って守り、中村が戻って守る場面も含めて、守備の意識はきわめて高かった。
こうして、15分が過ぎると、日本の高い位置からの守備にカタールは攻め手を失っていき、ボールを持ってもDFの間でボールを回すしかなくなった。すると、トップ下にいるテクニシャンのハルファンはボールが来ないのに焦れて、ポジションを下げていく。つまり、セバスチャンとハルファンの間の距離が開いていったのだ。セバスチャンは強力なFWだが、孤立してしまえば、なんとか守ることはできる。序盤戦ではセバスチャンに手を焼いていた寺田だったが、前半の終わり頃にはセバスチャンとの間合いをつかんだようで、早めに飛び込むことなく、しっかりマークし、冷静にタイミングを合わせて競り合うことで、ヘディングでも互角の勝負ができるようになっていった。
守備意識の徹底によって、日本選手たちは集中していた。それが、攻撃面でもいい効果をもたらし、ボールを奪うとすぎに展開していく速さにつながった。そして、豊富な運動量でファーストディフェンスを行っていたツートップは、その動きを攻撃面でも発揮した。19分の先制点は、この2つのポイントが重なったものだ。攻撃は、日本陣内左サイドでボールを奪ったところから始まった。ハーフラインを越えるパスを玉田がよく追って相手と競りながらキープして、いったん中盤の戻し、右に展開。内田が玉田の前に上げたボールを後ろから追い越すように走りこんだ田中達が相手DFの裏でボールを受けて、転がし込んだものだ。6本のパスが流れるようにつながった。
その後も、前半のうちに日本には何度か決定的なチャンスがあったものの1点どまり。十分に逆転の望みのあるカタールは後半の立ち上がりに、再びフルパワーで押し込んできた。だが、47分に玉田が2点目を決めて相手の戦意を失わせ、さらに68分には相手の選手交代のスキをついたCKから闘莉王が決めて、ゲームを終わらせた。守備に不安を抱えてスタートしたゲーム。それが、好ゲームを生んだのだ。
選手たちは守備に集中し、これまでになくよく動いた。ツートップとくに田中達の運動量は敬服に値する。
その集中が、そのまま攻撃にもつながった。しかも、キックオフ時の気温が23度と、走るサッカーをするには絶好のコンディションでもあった。同じ顔ぶれの、同じチームでも、試合によって、いい出来の試合もあれば、理由ははっきりしないままうまく機能しない試合もある。岡田監督が「ベストゲーム」という3次予選のホームのオマーン戦や、この日のカタール戦のようなパフォーマンスを示すこともあれば、10月のウズベキスタン戦のような不完全燃焼感の残る試合もある。だが、このカタール戦の経験は、「たまたまの好ゲーム」ではなく、今後のチーム作りにとっても一つのターニングポイントとなるのであるような気がする。まさに、中澤欠場というネガティブ要素がプラスに転じた試合だった。
最終予選3試合を終わって、2勝1分。アウェーの2試合はともに3ゴールを奪っての勝利。バーレーン戦終盤の2失点や、ホームでの引き分けといった「失態」はあったとしても、これまでの3試合は予想通りあるいは予想以上の結果だったのではないだろうか?
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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