かつてこれほど激動の最終日はあっただろうか。トランスファーウインドーが閉まる最後の一日は、駆け込み移籍が相次ぐのは毎度のことだが、これほど市場が激しく揺れたことはない。朝8時45分、スパルタク・モスクワのロシア代表FWパブリチェンコがトットナムへ1400万ポンド(約28億円)で移籍手続きが完了した、というニュースでこの日は始まった。
9時50分、トットナムがマンチェスター・シティーのクロアチア代表DFコルルカを850万ポンド(17億円)で獲得、と発表した直後だ。アラブ首長国連邦の投資会社アブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)がマンチェスター・シティーの買収に乗り出し、交渉は大詰め、という速報が飛び込んでくる。まったく寝耳に水の話だ。昨年、タイ元首相のタクシン氏が買収したばかりだから、にわかに信じがたい。
ところが11時過ぎ、ADUGは「シティーを買収した」と公式発表。その40分後、シティーもようやく「覚書を交わした」と発表した。だが情報が錯綜し、詳細が見えてこない。この間もポーツマスがランスからアルジェリア代表の左サイドバック、ベルハジをローン(期限付き)移籍で獲得。リバプールがイタリア国籍も持つ、ブラジルの18歳ストライカー、フローラをボタフォゴから獲得、ニューカッスルがバレンシアからウルグアイ代表のMFゴンザレスをローン移籍で獲得など、活発に移籍市場は動く。
12時すぎ、ADUGは「シティーの買収を完了。タクシン氏は名誉会長へ就任」と公式声明。その40分後だった。シティーはトットナムのFWベルバトフを3000万ポンド(60億円)以上で獲得を目指す、と発表したのだ。
ベルバトフはマンチェスター・ユナイテッドが2700万ポンド程度で獲得を目指していたが、トットナムが必死に慰留。移籍市場が閉まる9月1日の深夜までにマンUは合意し、手続きを完了できるかどうかが、この最終日の関心事だった。
シティーは本気なのか、それとも宿敵マンUへの嫌がらせなのか。14時半、マンUのFWサハがエバートンへの移籍が決定。ということは、やはりマンUはベルバトフの獲得が間近、ということか…。そのころエバートンは、北京五輪で活躍したインテル・ミラノのウインガーで、ナイジェリア代表のオビンナの労働許可証が取得できず、ローン移籍での契約を取り消した、という残念なニュースも入ってくる。
15時30分、シティーのヒューズ新監督が「ベルバトフの獲得を目指している。刺激的だ」と認める。これは本気だ。その直後、ロンドンから飛び立った白色のプライベートジェット機がマンチェスター空港に飛来した。ベルバトフが乗っているらしい。しばらくして、そのプライベートジェット機から降り立った人物を乗せた高級車が、すでに空港を離れた、と情報が入る。向かう先はシティーか、それともマンUか。ちなみに両クラブのトレーニング場はほぼ隣接しているから、最後の最後まで分からない。はたして、その高級車の運転手は、マンUのファーガソン監督に酷似していた…。(以下続く)
原田 公樹
1966(昭和41)年8月27日横須賀生まれ、呉育ち。国学院大学文学部中退。週刊誌記者を経てフリーのスポーツライターとして独立し、99年に英国へ移住。ウェンブリースタジアムを望む、北ロンドンの12階のアパートメントに住んでいる。東京中日スポーツやサッカーマガジンに寄稿し、ロンドン・ジャパニーズの不動の左サイドバックでもある。blog:http://blog.livedoor.jp/kokiharada/ mail:kokih@btinternet.com



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