7月20日(日)8:00 FC東京vs.ガンバ大阪 J sports 1

Jリーグ第17節、FC東京と1-1で引き分けた後の記者会見で、ガンバ大阪の西野朗監督はすっかりグチモードだった。「予想以上に疲労していて動けなかった。中盤で(選手間の)距離が離れすぎて……」と言ったかと思うと、「そうは言ったけれど、動きが悪いと思ってるわけではなくて、判断やポジショニングの問題……」。要するに、どこも、かしこも不満だらけということのようである。この監督は、機嫌のいいときは冗舌だが、不満だらけの試合の後には、よく、このグチモードに突入してしまう。暑い中の連戦である。どのチームもつらいところ。レベルの高い戦いは望むべくもないが、そこで勝点1を拾っていくのも重要なことだ。今が、リーグ後半に向けての我慢のしどころといった状態のダンゴレースが続く。

さて、国立競技場で行われたFC東京対ガンバ大阪の試合。立ち上がりは、明らかにG大阪のリズムで始まった。3分には右CKから流れたボールをバレーがゴール前に上げ、DFの中澤聡太のヘディングシュートが右ポストを叩く。その後もG大阪のテンポの速いパスが回って、左MFのルーカスがボールに絡み、左サイドを駆け上がる安田理大の動きもいい。そして、10分には二川孝広が左サイドに入れたロングパスをバレーが拾って、安田に戻す。安田が入れたハイボールを逆サイドから走り込んだルーカスが決めて、G大阪が先制する。

「G大阪の一方的な試合になるのでは……」。そんな気がした。

ところが、G大阪の先制点の後、こんどはFC東京がゲームを支配したのだ。そして、29分には中盤でのFKを、梶山陽平がすばやく左の徳永悠平に渡し、徳永が中に切り替えして右足でミドルシュートを決めて1-1。前半は、その後もFC東京が攻め込むが逆転ゴールは生まれず、後半はG大阪が支配したものの、結局1-1で引き分けに終わったのだ。暑い中、苦労した甲斐もなく引き分けに終わって、それが西野監督のグチにつながったわけだ。問題は「G大阪が1点を先制した後」だった。G大阪が、ここで畳み込むことが出来たら、G大阪の快勝。西野監督も、記者会見でグチなど言わずにすんだはずだ。

ゲームの流れを変えたのは何だったのか?僕は、いちばんのポイントはFC東京のMF浅利悟のプレーだったと思う。

1点を先制された後、FC東京が反撃に移るのだが、浅利はつねにその起点になっていた。たとえば、11分に石川直宏が右からクロスを上げ、平山相太が折り返して、カポレが飛び込んだ場面(GKの藤ケ谷陽介がセーブ)、梶山が落としたボールをタイミングよく石川の前のスペースに送り込んだのが浅利だった。16分には、今度は浅利が左の羽生直剛を走らせ、梶山のシュートに結びつける。17分には、G大阪の明神智和がドリブルで持ち込んだボールを奪って、右の石川にパスを通して、石川のクロスを引き出す。

中盤で相手ボールをカットして、前の選手を積極的に使う。最終ラインが奪ったボールも浅利経由で前線につながる。この重要な時間帯の浅利のプレーは完璧だった。浅利悟は34歳のベテラン。東京ガス時代から、FC東京一筋でプレーしてきた選手である。守備的なMFで、かつて大熊清監督の時代には、FC東京がリードしたゲームで後半に登場して、守備を固めて逃げ切るというのがパターンだった。ここ数年、出場機会は減っていたが、昨年から再び出場機会が増え、今年もほぼレギュラー格で使われている。

言ってみれば、「地味な選手」である。

このG大阪との試合でも、若い選手が活躍していた。FC東京は、この日は右サイドバックに長友佑都、左に徳永を置いていた。その結果、FC東京の右サイド(Gの左サイド)では長友と安田のマッチアップが見られたのだ。ちょうど、北京オリンピックの代表選手が発表された直後であり、U23代表では同じポジションを争うであろう2人の対決は注目を浴びた。石川とのコンビネーションを生かして長友が抜ける場面もあったが、安田も1人でサイドを持ち上がる場面もあり、先制点のクロスも安田からのもの。2人の(あるいは石川も含めた3人の)サイドの攻防は面白かった。逆サイドのFC東京の徳永対G大阪の加地のサイドも含めて、Jリーグでこれだけのサイドの攻防が見られるのは珍しいことだろう。だから、どうしても若い選手たちのプレーに注目は集まってしまう。

FC東京の城福浩監督は、「バランサーとしての浅利が、うまくボールを散らすことができれば、(FC東京の)やりたいサッカーができる」と語ったが、それもゲームを見る目を持った湯浅健二さんが質問したからという程度の言及だった。それに、時間が経過するとともに、中盤もG大阪に再び支配されてしまい、浅利のスーパーなプレーも次第に見られなくなってしまった。だが、このゲームの流れを考えれば、G大阪が1点をリードした直後。もしかしたら、G大阪が追加点を奪って試合の行方を決めてしまったかもしれない時間帯に、しっかりと守備をして、そこから何度もチャンスにつなげた浅利のプレーがあったからこそ、FC東京は結果的に貴重な勝点1を獲得できたのだ。やはり、この試合で最も重要な選手は浅利だったということになる。

けっして派手ではないプレーであっても、サッカーの試合では1人の選手のちょっとしたプレー、ちょっとした頑張りがゲームの行方を変えてしまうことがあるのだ。高いスーパーテクニックを見るのもサッカーの楽しみだし、両監督の戦術的な駆け引きに思いをめぐらすことも面白いかもしれない。だが、やはり同時に、そうした1人の選手のちょっとした頑張りも、しっかりと見ておきたいものだ。サッカーというスポーツにおいて、勝負はそうしたディテールの部分で決まるというのも真理なのである。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授