スイスとオーストリアでEUROのハイレベルな試合を17試合も見るという「濃密な」経験をして帰国した。帰国後、いろいろな人たちとEUROの話をする機会があったが、「EUROの試合を見てしまうと、日本の試合はつまらなくて見られない」とか、「別のスポーツのようだ」とか言う人もいた。そうだろうか?たしかに、昔、初めて西ドイツ・ワールドカップを見に行ったころには、僕もそんなふうに思ったものである。あるいは、初めて海外でサッカーを観戦したのは1972年秋のアーセナル対マンチェスター・シティー選手だったが、そのときも、そんな気がしたことを覚えている。

今でも、たしかに明らかな差はある。

だが、僕にはヨーロッパと日本でやっているサッカーが、「別のスポーツのよう」には思えない。今、ヨーロッパのトップクラスと日本のサッカーの差が、はっきりと、より具体的に見えるような気がするのは、両者の差が縮まったからこそなのではないだろうか?だいいち、ヨーロッパのたとえば準々決勝に残ったようなトップクラスと比べるのも無意味ではないか。スペイン、ドイツ、ヒディンクに魂を注入されたロシア。オランダ、ポルトガル。このあたりは、本当に世界のトップクラスで、ここと比べて日本が劣っているのは当たり前のことだ。EUROで好成績を収められなかったスイスとかオーストリア、今回のチェコあたりと戦えば、惨敗することはないだろうし、勝つことは十分に可能だと思う(昨年の遠征で日本代表はオーストリアと引き分け、スイスに逆転勝利をおさめた)。

日本に帰ってきて、そのへんを確かめたかった……。

という話の展開になると、「帰国して観戦したJ1の試合の話だろう」と、皆さんは想像するだろう。ところが、ひょんなことから帰国して最初に観戦したのは、J1でもなければ、J2でもない。なんと、関西リーグ2部の履正社FC対滋賀FC(7月5日)という試合だった。関西リーグの2部。つまりKJFLの下の地域リーグの2部。J1から数えれば、日本の5部リーグに当る試合だった。屋根もない大阪の鶴見緑地球技場。僕はすっかり日焼けしてしまった。

そして、その翌日の日曜日は、昼にJFLの横河武蔵野FC対TDKを観戦。そして、夜はJ1の川崎フロンターレ対横浜F・マリノスを観戦した。つまり、EURO決勝 → 日本の5部リーグ → 3部リーグ → 1部リーグという順序で観戦していったのだ。5部リーグ。関西2部では、滋賀FCが圧倒的な強さを誇っていた。11節終了時点で滋賀FCは9勝1分1敗、得点、失点15。つまり、1試合平均で4ゴールという数字が残っていた。そして、第12節、滋賀FCは履正社を3-0で破って、この時点で早くも来季の1部昇格を決定してしまった。昨年までは県リーグにいた滋賀FC。関西リーグ昇格から半年で1部昇格を決めてしまったのだ。

たしかに、試合を見ていると、個人能力という点で差は歴然としている。だが、前半の滋賀FCは履正社の守備陣を攻めあぐね、先制ゴールが決まったのはようやく29分のことだった。パスをまわして攻めるが、なかなか守りを固めた相手のペナルティーエリア内に入り込むことが出来ない。そんな展開が続いていた。この先制ゴールにしても、ペナルティーエリア周辺でパスを何本も、何本もつないだ後の得点だった。

攻めがもう少し速ければ、かなり楽に突破できるのだろうが、個々の技術はあるものの、ボールをコントロールしてパスを出すまでに無駄なボールタッチが多く、その分、パスが遅れてしまうのだ。その様子を見ていて、僕の脳裏には守りを固めた中東勢を相手に攻めあぐねている日本代表の姿が浮かんできた。もっと意識を高くして、ワンタッチコントロールを心がけるべきだろう。だが、ゆっくりプレーしていても、相手のプレッシャーが弱いから、自由にパスをつなぐことができてしまうのだ。そういう環境でプレーしていると、どうしてもそのレベルのプレーになってしまうのは、ある程度やむをえない。

来季、1部に昇格し、あるいは将来JFLに上がって、高いレベルの相手とプレーできるようになれば、滋賀FCの選手たちももっと厳しい戦い方を身につけられるだろう。関西リーグ2部を見た後、JFLを見ると、たしかに前線からきちんとプレスがかかって、それをどうしのぐかという勝負が展開されていた。そして、最後にJ1を観戦すると、相手陣内の深い位置からどんどんプレッシャーをかけ、あるいは相手DFが持っているボールにFWが激しいタックルをしかける場面すらある。そして、J1の選手たちはそういう激しいプレーの中でも、しっかりとパスがつなげるのだ。ボールを持ってからのうまい、下手ということも大事だが、どれだけ前線からプレッシャーをかけられるか、そして、そうしたプレッシャーをかけられながら、どれだけ自由にプレーできるかどうか。それが、上位のリーグとの差ということになる。

そして、5部リーグ(関西2部)と1部リーグ(J1)との間の実力差と、J1とEURO決勝のレベル差を比べてみると、どうやら、J1と関西2部との差の方が、J1とEUROの差よりも大きいのは間違いなさそうだった。一安心である。

ところで、中東相手の日本代表状態だった滋賀FCの戦いを見ても、やはり、同格の相手、あるいは自分たちよりやや格上の相手との試合こそが、強化に役立つことは明らかだ。滋賀FCは、県リーグや関西2部あたりでプレーすべきチームではない。その上の関西1部あるいはJFLで戦う経験を積むことこそが強化の最短距離なのだろう。つまり、守りを固めてロングボールを蹴り込むようなサッカーをする中東勢と、いくら試合をしても、たいした経験にはならないことは間違いない。さいわい、滋賀FCは来季は1つ上のレベルのリーグでプレーすることはできる。

だが、日本代表は半永久的にアジアの相手と戦わざるを得ないのである……。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授