チャンピオンズリーグ準々決勝ファーストレグ。格下と見られていたフェネルバフチェが、プレミアリーグでも好調のチェルシーに逆転勝ちという番狂わせがあった。
試合の転機は、54分にジーコ監督が攻撃の主力と思われていたウール・ボラルを諦めて、カジム・リチャーズを投入したところだった。イングランド生まれのカジムは、右サイドからしかけ、そして、相手DFラインの裏をとって、65分に同点ゴールを決めた。
フェネルバフチェとチェルシーを比べれば、戦力的にはあらゆる面でチェルシーが上回る。フェネルバフチェが上回れる部分があるとすれば、ブラジル人選手を中心としたテクニックを生かしたボールキープ率。「攻め急がず、ゆっくりとキープすることによって、ゲームを支配したい」というのがフェネルバフチェの狙いだった。立ち上がりは、それがうまくいっていた。前線の選手もいつも以上に相手ボールをよく追い、最終ラインはパスのスペースを消して、ボールを奪ったら確実にキープする。だが、10分過ぎにチェルシーが攻撃の圧力を加えはじめると、デイビッジのオウンゴールで、フェネルバフチェはあっさりと貴重なアウェーゴールを献上してしまう。13分のことだった。
その後、前半は完全にチェルシーがゲームを支配した。
フェネルバフチェの攻めの最大の起点と見られたのは、左サイドのアタッカー、ウーゴ・ボラルだった。1回戦のセビージャ戦ではダニエウ・アウベスのサイドを何度も突破してチャンスを作っていた。そのウーゴ・ボラルに対して、チェルシーはエッシェンを右サイドバックの位置で起用して迎え撃った。そてい、ゲームが始まってみると、ウーゴ・ボラルはほとんど何も出来ず、チェルシーの右サイド、エッシェンとJ・コールが何度もフェネルバフチェの左サイドを攻め崩した。
トップのドログバが開けたスペースにバラックが飛び出し、何度もチャンスを作る。風邪から胃腸炎を起こしたランパードに元気がないのが気になるが、チェルシーの楽勝かと思われた前半だった。だが、前半のうちに、追加点を与えなかったことが、後半のフェネルバフチェの逆転劇につながることになる。
後半に入ると、再び前線からのチェイシングと中盤でのキープを生かして、フェネルバフチェがチャンスを作り始める。出場停止のギョハンに代わって右サイドバックに入ったオンデル・トゥラジュが右から質のいいクロスを上げる。だが、ワントップのケジュマンは何度もオフサイドの罠にかかり、左サイドのウーゴ・ボラルは依然として機能しない。ジーコ監督が、カジム・リチャーズ投入を決断したのは、そんな状況でのことだった。
カジム・リチャーズはロンドン生まれのトルコ人。昨季はイングランドのシェフィールド・ユナイテッドに所属していたが、たいして活躍もできなかった選手だ。フェネルバフチェに移籍してからは、交代で使われることが多かったが、国内リーグでもまだ得点がない。早い時間帯にウーゴ・ボラルを退けてカジム・リチャーズを入れるのは、かなり思い切った交代だと言っていいだろう。カジム・リチャーズは右サイドに入り、右のMFだったデイビッジが左に回る。カジム・リチャーズやウーゴ・ボラルがドリブル突破をしかける選手だとすれば、デイビッジは中に入って自ら得点を狙うタイプ。そのため、チェルシーの右サイドバックのエッシェンがMFの位置にまで上がってプレーするようになる。
すると、デイビッジはタッチライン沿いの高い位置に張ってエッシェンの上がりを阻止。これで、試合の流れはフェネルバフチェに傾いた。
そして、65分の同点ゴールが生まれる。中盤深い位置からメフメト・アウレリオが前線にロングパス。そこに、カジム・リチャーズが飛び出したのだ。それまでは、ケジュマン1人をケアしていればよかったチェルシーのDFにとって、カジム・リチャーズの2列目からの飛び出しは意外性にあふれるものだった。オフサイド・ラインぎりぎりを突破したカジム・リチャーズは、ボールがバウンドするところを落ち着いて叩いて同点ゴールを決めた。これまでゴールを決めていなかった選手とは思えない落ち着きだった。
これで、流れは一挙にフェネルバフチェに傾く。チェルシーは、前半あれだけ機能していたエッシェンとJ・コールの右サイドからの攻めが見られなくなり、ドログバがボールを持っても、パスコースを作れず、バラックらとのコンビネーションも崩れて、シュートを撃つしかないような状況に追い込まれていく。シュートを撃ったドログバが、他の選手と顔を見合わせるような場面が何度もあった。
そして、81分、中盤でつないで主導権を取っていたが決定的なチャンスにはつなげられないでいたフェネルバフチェに、決勝ゴールが生まれる。中盤のやや左サイドでデイビッジがボールを受けた瞬間、相手のマークが緩く、デイビッジはロングシュートを狙ったのだ。ボールは足元にあり、ほとんど助走はつけられなかったが、強靭な筋力でバネのようにしなった体から放たれたボールは、クディチーニが守るチェルシー・ゴールの左上隅に突き刺さった。
前半は、完全にチェルシー・ペースの試合。それを、後半主導権を取り戻したフェネルバフチェ。まるで1回戦のセカンドレグ、後半に2点を取って延長・PK戦に持ち込んだセビージャ戦の再現のようだった。ジーコ監督の積極的な采配も特筆もの。逆に、前半はあれだけいい流れでありながら、オウンゴールの1点しか奪えず、後半逆転を喫し、コンビネーションのズレも目立ったチェルシー。スタンフォードブリッジでは圧倒的な強さを誇るチェルシーだとしても、中5日で迎えるセカンドレグに向けて、尾を引きそうな敗戦となった。フェネルバフチェ奇跡の準決勝進出の可能性も、完全に否定できなくなってきた。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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