スカパー!のチャンピオンズリーグ解説で、セビージャ対フェネルバフチェの試合を担当した。
フェネルバフチェの監督は、あのジーコ。日本代表監督時代、僕はほぼ一貫してジーコ監督を批判し続けた。コンディショニングの軽視。選手起用の固定化など、ジーコ監督は日本代表に停滞をもたらした。そのジーコが、フェネルバフチェで成功を収め、ついにチャンピオンズリーグの決勝トーナメントに進出してきた。イスタンブールでのファーストレグはフェネルバフチェが3-2で先勝したが、セビージャにアウェーゴール2点を与えており、けして有利に立ったとは言えない状態。守備に不安があるチーム同士の戦いであり、点の取り合いになることは必至というゲームだった。
勝たなくてはいけないホームのセビージャは、初戦はスタメンからはずれた左のアタッカー、ディエゴ・カペルを先発させて、右のヘスス・ナバスとともに、サイドからの攻撃を徹底。20歳のディエゴ・カペルの躍動感が目立つ立ち上がりとなった。後手を踏んだフェネルバフチェはファウルでこれを止める。そして、カヌーテに対するファウルで得たFKを、ダニエウ・アウベスが強烈な無回転のブレ球で決め、5分で早くもセビージャが先制。さらに12分にも、25メートルほどの距離からMFのケイタがミドルシュートを決めて、早くも2-0とセビージャがリードする。
もともと、昨年のUEFAカップの覇者で、グループリーグでも5連勝で、アーセナルを抑えて1位通過してきたセビージャの方が知名度も高く、「格上」と見られていた。ホームのセビージャの圧勝も予想される序盤戦だった。その後、フェネルバフチェも盛り返し、20分にCKから1点を返した。左のCKが流れてきたところで、ディビジがフリーになっていたのだ。ファーストレグから、セットプレーでの守りはセビージャの大きな弱点でることが露呈されており、フェネルバフチェはセットプレーの練習はかなり重ねてきたように見えた。それでも、41分にダニエウ・アウベスのチョップキックをカヌーテが胸でコントロールして巧みに決めて、セビージャが3-1とリードを広げてハーフタイムを迎えた。スタジアムも、ここまでは楽勝ムードが漂っていた。
だが、後半の立ち上がりで試合展開がすっかり代わってしまう。お祭りムードだったスタジアム全体も、前半とは打って変わって、1点を争う緊迫したムードに包まれる。フェネルバフチェが、リズムを変えてきたのだ。
前半は、間延びして大きなスペースを相手に与えており、攻めも、左のアタッカー、ウール・ボラルの突破か、セントラルMFのアウレリオの攻撃参加くらいのものだったのが、後半のフェネルバフチェは、相手との間合いを詰めて、高い位置からプレッシングをかけ、奪ったボールも選手と選手の距離を短くして、スピードを犠牲にしてでもしっかりつないで展開するようになる。岡田監督が言い出した「集中、展開……」が、日本では流行言葉になっているが、まさに密集でパスをつなぐことでリズムを取り返したのだ。これは、ブラジル人選手が多いフェネルバフチェが相手を上回っているストロングポイントである。リードを許しているから当然とはいえ、フェネルバフチェが主体的にリズムを変え、ボール・ポゼッションでも上回る。だが、なかなかゴールには結びつかない。
すると、ジーコ監督が再び動く。MFのセルチュクに替えて、FWのセミッヒを投入したのだ。
これまで、チャンピオンズリーグではフェネルバフチェはつねにワントップで戦ってきた。ケジュマンがファーストチョイスで、ケジュマンがプレーできないときにはセミッヒが入った。ファーストレグは、2-2の場面でジーコ監督がケジュマンに替えてセミッヒを入れ、セミッヒが決勝ゴールを決めたが、このときもシステムは変えていない。だが、ジーコ監督は、セカンドレグではケジュマンとセミッヒのツートップに切り替えたのだ。これで、攻撃の厚みが増した。トップが増えただけでなく、中盤が1人減ってスペースができ、そこをトップ下のアレックスが自由に使ってダイナミックに攻撃を組み立てることができるようになったのだ。
そして、79分、フェネルバフチェは中盤でのアレックスのFKを受けたデイビッジが再び決めてついに2試合合計5-5の同点に追いついたのだ。これで、アウェーゴールも並び、試合は結局、延長、PK戦に持ち込まれ、フェネルバフチェが勝った。フェネルバフチェの2得点は、セビージャのセットプレーのときの守りのミスによるものだった。だが、サッカーでは得点が幸運か相手のミスによって生まれるのは当然のこと。前半の派手な点の取り合い=セビージャの楽勝ムードを先手々々を打って変えたフェネルバフチェの、そしてジーコ監督の試合運びの上手さが印象に残った。
日本代表では、采配の冴えを見なかったジーコ監督だが、彼は変わったのだろうか?いや、じつはジーコ自体はそれほど代わっていないのかもしれない。
たとえば、ファーストレグの選手交代(ケジュマン → セミッヒ)のような勝負勘は、これはジーコにはもともと備わったものだ。終了直前にゴールを生んで、勝負を手繰り寄せる勝負強さも日本代表時代からあったもの。中盤でしっかりキープすることによってリズムをつかんだ後半の采配だが、あれも、日本代表でも例の「黄金の4人」で実現しようと思っていたものなのかもしれない。だが、日本の選手には、その真意を伝えることはできなかった(プロのコーチではないジーコは、それを伝えるためのコーチングの技術を持たなかった?)。だが、ブラジル人選手中心のフェネルバフチェ(この試合の先発のうちブラジル人選手が5人=うち3人はトルコと二重国籍)では、ジーコの考えをピッチ上で実現できたという違いもあるのだろう。そして、何よりも、「同じメンバーで長い時間プレーすることによって自然にコンビネーションを作ろう」というジーコの手法は、クラブチームでなければ効果を発揮できないものだったのだろう。
不思議な勝負強さと、圧倒的なホームアドバンテージ。準々決勝で当るチームにとっても、フェネルバフチェは往相以上に難しい対戦相手となることだろう。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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