新しい選手、違うポジション。東アジア選手権はテストの試合、ガチンコは韓国戦だけ

ワールドカップ予選のタイ戦は、勝利=勝点3をゲットすることだけを目的に、「コンディションを整え、セットプレーで点を取って勝つ」とハラをくくって戦った岡田武史監督。今回は、「東アジア選手権はテストの大会」と割り切ったようだ。

テストといっても、いろいろな内容が考えられる。前回のコラムでも書いたかと思うが、ちょうど10年前のダイナスティーカップでは、岡田監督は戦術のテストのために勝負を捨てた戦い方をした。あのときは、すでに前年のワールドカップ予選を通じて、チームはほとんど完成しており、ワールドカップ本大会での強豪(アルゼンチン、クロアチア)との試合を想定した戦術のテストが目的だった。

だが、現在は、状況がまったく違う。まだ岡田監督が就任してから3か月。しかも、当面のタイ戦のために、オシム監督時代からメンバーもほとんど変えずに戦ってきたのだ。したがって、現在、必要なテストというのは戦術的なものではなく、まさにメンバー選びのためのテストなのだ。そこで、北朝鮮との試合に、岡田監督はこれまでと違うメンバーを多数起用した。記者会見での岡田監督の言葉で言えば、「バックアップの選手や違うポジションでのプレー」で、その選手の能力を計ろうとしているのだ。

たとえば、加地亮は左サイドでプレーした。後半、右サイドバックの内田篤人に代わって、これまでジーコ監督時代から左で使われてきていた駒野友一が交代で入ってくると、加地は駒野に歩み寄ってポジションを確認したが、岡田監督の選択はやはり駒野を右に入れて、加地はそのまま左サイドだった。考えてみれば、駒野も、加地も、ともに右サイドが本職なわけだ。これまでは、加地が本来の右でプレーし、駒野が左に回っていたのだが、逆の選択もテストしてみる価値はあるだろう。

そして、1点を取りにいくために、安田理大の突破力を生かすべく、岡田監督は安田を左サイドのMFとして起用し、これが功を奏して、同点ゴールが生まれた。安田は、もともと前のポジションでプレーしていた選手だ。また、昨年のナビスコカップ決勝では、ガンバ大阪の西野朗監督が、後半からスリーバックに変更し、安田をウィングバックにして、川崎フロンターレに快勝したことがあった。

監督が交代したことで、ポジションの見直しは、これからもいろいろ試されることだろう。

岡田監督は、もともと、選手の能力を見抜いて、抜擢したり、適切なアドバイスをすることに長けた指導者だ。コンサドーレ札幌で指導を受けた播戸竜二や山瀬功治、今野泰幸などは、岡田監督の指導で大きくその才能を伸ばした選手である。

加地などが「違うポジション」でプレーした選手だとすれば、岡田監督が「バックアップ」と表現したのが、タイ戦までの試合であまり、あるいはまったく起用されなかった選手たち。GKの川島永嗣、DFの水本裕貴、MFの山岸智、FWの田代有三、播戸竜二といったところだ。岡田監督になってから大抜擢された内田もその1人と言ってもいいかもしれない。

タイ戦という、確実に勝たなければならない試合があったため、チリ戦やボスニア・ヘルツェゴビナ戦では、多くの選手をテストすることは不可能だった。そして、試合に起用しなければ、若い選手はいつまでも経験を積むことができない。たとえば、右サイドバックとして抜擢された内田は、本人も言うように、最初のチリ戦などでは、相手のサイドのプレッシャーが激しかったこともあるが、本来のプレー(「守りから攻め」でも、「攻めから守り」でも、動き出すタイミングが早いのが、内田の魅力だ)をまったく出せなかった。だが、1試合毎に落ち着きを取り戻してきた。それが「経験」というものだ。

北朝鮮戦の内田は、積極的にサイドを攻め上がって、何度もクロスを入れ、また自らもドリブルで突破を図ってチャンスを作った。この日の、日本の最優秀選手は間違いなく内田だろう。

初めて試合に起用された田代は、前半は落ち着いたプレーができなかったが、前半の45分間でプレーにも慣れて後半に入って大幅に改善され、持ち前のヘディングの強さを生かしたポストプレーでも負けなかったし、自らシュートに持ち込む姿勢を見せた。

一方では、プレーに精彩を欠いた選手もいたが、内田、田代、安田など、新しい力の輝き方を見ると、「この東アジア選手権が終われば、かなりメンバーが変わってくるのではないか」という気がしてくる。岡田監督は、次の中国戦も新しいメンバー、新しい組み合わせを試してくることだろう。スピードのあるカウンターを仕掛けてきた北朝鮮とは一味違った、ロングボールを使ったパワフルな攻めをしてくる中国相手に、また、個々の選手の能力を見ることもできるだろう。

そして、最終の韓国戦では、「現時点での最強メンバー」を組んで、強い相手との勝負にこだわった試合をして、テストの総仕上げとするのではないだろうか。韓国の方も、ワールドカップ予選で呼び戻した欧州組を招集せず、若手を多数入れたメンバー構成で、しかも、東アジア選手権開幕の中国戦では、若手が活躍していた。許丁茂監督も、岡田監督同様、就任間もないなど、日本とは、状況も似ている。

韓国戦は、ガチンコ勝負である。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授