日本代表が南アフリカワールドカップへの第一関門となるタイ戦に向けて長期合宿を張っている傍らで、Jクラブも大半がキャンプインし、本格的なチーム作りを進めている。

昨季は9位に終わったジュビロ磐田も鹿児島・鴨池で今週4日からキャンプに入っている。昨季途中から指揮を執る内山篤監督のもと、かつての黄金時代を取り戻そうとチーム全体が躍起になっている。その旗振り役として大きな期待を背負っているのが、2シーズンぶりに古巣復帰を果たしたレフティ・名波浩。10年前の第1次岡田ジャパン時代にはエースナンバー10を背負い、1999〜2000年にかけてイタリア・セリエAのベネチアでプレーした男もすでに35歳。ピッチに立つ姿を我々が見る機会もかなり少なくなってしまった。

90年代から21世紀初頭にかけて「常勝」といわれた磐田を力強く支えた彼が、94年から一貫してプレーしてきたチームを離れたのは2006年夏。山本昌邦監督の辞任後、指揮を執リ始めたアジウソン監督とのサッカー観が食い違ったのが発端だった。強引に世代交代を推し進めるブラジル人指揮官についていけないと考えた彼はレンタルでセレッソ大阪へ移籍。J1残留請負人として新天地に赴いた。が、C大阪はJ2降格を免れることができず、名波は救世主になれなかった。

翌2007年はJ2の東京ヴェルディ1969へレンタル移籍。シーズンいっぱいでの引退も示唆して新たなクラブへと移った。テクニシャンを好むラモス瑠偉監督も当初は彼を絶対視したが、4月から5月にかけて7連敗を喫し解任危機に瀕すると、名波をメンバーから外すようになる。結局、指揮官は続投したが、彼はその後も出場機会が激減。東京VのJ1復帰にほとんど貢献できないまま、1シーズンを終えることになった。

当初予定通り引退するのか、それとも現役を続行するのか…。周囲はその動向に注目した。本人いわく「昨年11月の終わりまでは辞めるつもりでいた。テレビ局との(解説の)話も進んでいたしね」という。そんな決意を覆したのが、古巣・磐田を率いる内山監督からのオファーだった。内山監督は名波にとっては「アニキ」のような存在。94年にJリーガーになってから、コーチと選手としてともに高いレベルで戦ってきた戦友でもある。

「篤さんやジュビロの関係者が『もう1回やろうよ』と言ってくれただよね。自分は即答しなかったんだけど、(右近弘)社長も『現役で戻って来い』と言う。そこで家族会議を開いたら『みんなで静岡に住もう』って言ってくれた。それで決断できたんだよね」。かくして3シーズンぶりに磐田でプレーすることになった名波。だがヒザの古傷の状態は芳しくなく、10年前のように走れる体ではない。若手も育ってきており、彼がコンスタントにピッチに立てる確約はない。

それでもいい…。そう本人は言う。

「出ることへのこだわりはヴェルディ時代にもうなくなったよ。それより今年は楽しくサッカーをやりたい。ジュビロに今までの経験を還元しながらね…。ジュビロはこれまで個性ある選手がいたけど、今は厳しい状況に立たされている。自分がセレッソに行ったり、ヴェルディに行ったりしている間にも情報は入ってきてたけど、理想とはかけ離れたサッカーをしていた。それをかつての魅力的なサッカーに変えようと、篤さんが今、頑張ってる。秀人(鈴木)やマコ(田中誠)も1年以上はかかると言ってるけど、ジュビロの若い選手たちは探究心旺盛。自分もそこに参加して、持っているものを伝えたいなとね。今年はジュビロを1から作り直すシーズンになると思うよ」と。

名波は現役生活をあと1年と決めている。昨年末には一度、その決意をひっくり返したが、2度目はないという。最後の1年だからこそ、全てを出し切って完全燃焼したい…。本人は今、そんな気持ちで鴨池キャンプに参加。自らの体を追い込んでいる。

彼が本気になった時の凄さを我々は知っている。遡ること7年半前。レバノンで開かれた2000年アジアカップの名波がまさにそうだった。べネチアで思うように試合に出られず、抱えていた不完全燃焼感を全て晴らすかのように、彼はピッチ上の指揮官として君臨した。あの時の存在感は2004年アジアカップ(中国)の中村俊輔(セルティック)を超えるという評価もある。もちろん7年半もの年月が経過し、当時のようなキレはないかもしれないが、名波にはトップレベルでの豊富な経験がある。それを最大限生かしつつ、華麗なパスワークを我々にもう1度、見せてほしいものだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。