岡田監督は、「大久保のシュートが決まって、勝ったことで『すべて良かった』となるより、引き分けという結果でよかった」というような趣旨のことを、記者会見中に2回も言った。指揮官自らが、勝ちゲームではないということを認めたわけである。気温3.1度という寒さの中のゲームは、選手たちも凍り付いていたかのように、大きな動きもなく終わった。

原因としては、4つほど考えられる。

まず、最も重要なのが、このゲームが1月の下旬に行われたゲームだったこと。要するに、日本のサッカーはまだオフシーズンオフであり、Jリーグの各クラブはようやくキャンプに入ったか入らないかという時期なのだ。そもそも、1月に行われた親善試合というのは、これまでも酷い試合が多かった。ジーコ監督時代には、マレーシア、イラク、フィンランドとの試合などがあった。どれも、結果として勝ったとしても、内容はよくなかった。アメリカ遠征というのもあった。

それと、まったく症状は同じである。

1月15日からの代表合宿のために、選手たちはコンディションを整えて集合したし、大掛かりなフィジカルスタッフが付いて、コンディショニングに万全を期しはした。ジーコ時代以来、2月からの予選のために代表が1月に始動するという経験も重ねてきたし、ジーコ時代より少しは改善されているかと期待したが、やはり、無理だった。選手の体はオフ状態になっていたようで、動きにキレがまったく見られなかった。

そして、2番目は、やはりオフということに関係があるが、試合勘が完全に失われていた。日本の場合、天皇杯開催のためにオフ入りがチームによってバラバラ。あるクラブは12月上旬にはオフに入り、あるクラブは元日まで試合があるという具合なのだが、いずれにしても1か月以上に渡ってゲームがなければ、試合勘は当然失われる。たとえば1人の選手がボールを奪った瞬間に周囲の選手が動き出し、前方のスペースにどんどんと入っていくべき場面でも、どうしても動き出しが遅くなってしまうのだ。そして、体はオフでは動き出したとしても、キレは悪い。

ただでさえ難しい1月のゲームという事情に加えて、今回は新監督の下での初戦という状況が加わった。岡田武史新監督が就任したこと。選手たちは、自信を持ってプレーするというよりも、岡田新体制の下でレギュラーの座を確保することにかなり意識が行っていたのではないだろうか。また、岡田監督が言ったという「接近、展開」にもこだわり過ぎていた。要求された形をなぞってパスを回すことに汲々としており、昨年後半に見られたような爆発的な動きとかキレのいいオーバーラップなどが影を潜めてしまった。パスが回っていても、ボールが前に行かず、停滞したところを狙われて、カットされる場面も何度もあった。

そして、最後に相手のチリが、若手中心ではあるものの、かなりの強チームだったこと。1人ひとりの選手は、かなりのテクニックがあり、日本の選手がプレッシャーをかけても、それをかいくぐってパスをつなぐ能力を持っている(中南米勢との対戦では、いつものことだ)。だから、あまりプレッシャーをかけると、それをかわされてピンチになる恐れがあり、日本の選手たちは積極的にアプローチをかけられなくなってしまったのだ。

また、チリの選手は守りの局面でファウルぎりぎりの守備がうまかった。日本選手が倒されて、レフェリーも「おやっ」と思いながら、笛を吹くこともできない。そんな場面が何度もあった。さらに、日本の選手が抜け出した場面では、チリの選手は、意識的に、あっさりとファウルで止めてきた(それも、警告を受けない程度に)。サッカーの伝統国であるせいなのか、若い選手であるにもかかわらず、そういった意図的なファウルを含めて、個人としての駆け引きはなかなかうまかった。こうしたいくつもの要因が絡み合って、日本代表はパスがつなげず、苦しい展開が続いた。

まあ、悪い内容の試合ではあったにしても、いずれも容易に想像できる原因であり、チリ戦の苦戦は想定内の出来事だったと言っていいだろう。前半の終わりから、後半の立ち上がりまでかなり攻め込まれたが、センターバックとGKは安定しており、決定的なピンチもなく守りきれたのは救いだった。また、コンディションの良い選手を確認できたことも収穫だろう。

監督の交代によって、マスコミはオシム監督と岡田監督の比較論で盛り上がっているが、チリ戦での苦戦はコンディションの悪さが最大の問題なのであって、今の段階で岡田監督の功罪を論じるのはまったくの時期尚早と言わざるを得ない。岡田監督は、チリ戦とボスミア・ヘルツェゴビナ戦でメンバーを入れ替えて、いくつもの組み合わせを試そうという気持ちもあったかもしれない。だが、チリ戦がこの程度の内容に終わったとなれば、選手のコンディションの見極めと、今のメンバーの間でのコンビネーションの確立に集中するしかなくなったのではないか。2月6日のタイ戦まで、たった11日しかないのだ。

岡田監督が考えるサッカーを実現するのは、2月の東アジア選手権あるいは5〜6月の連戦で代表が長期間一緒に行動できる時期まで待っていい。その時期に、結果に一喜一憂することなくチーム作りに集中するためにも、タイ戦ではどんな内容でもいいから勝ち点3を取っておくべきだ。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授