満身創痍、疲労困憊の浦和レッズ。AFCチャンピオンズリーグでは見事、優勝を果たしはしたものの、Jリーグでは川崎、清水との引き分けに次いで、ついに2位の鹿島アントラーズに敗れて、勝点1差にまで詰め寄られてしまった。ガンバ大阪がもたついていなかったら、今頃、首位を明け渡してしまっていた可能性もあった。  オズバルド・オリベイラ監督の鹿島は、このところ急浮上。前節まで7連勝中だったのだから、鹿島が首位の浦和を破ったとしても、これはとても「番狂わせ」とは呼べないだろう。

浦和は、1人1人が体を張った堅い守備でこれまで勝ち進んできた。攻撃は、今シーズン好調のポンテが操り、ワシントンと永井雄一郎や田中達也などの個の力によるもの。ごくごく大雑把に言って、堅守速攻のチームと言っていいだろう。

一方の鹿島もベースは堅い守備にある。大岩剛と岩政大樹のストッパーは強力で、しかも闘莉王のように攻撃に上がったりしない。そして、ボールを奪ってからは、浦和とは違って、ポゼッションでゲームを支配する。丁寧にパスをつなぎ、なかなかボールを奪われない。しかし、それは同時に攻めのスピードが足りないということにもつながりかねない。両刃の剣といったところだ。

鹿島には、今シーズン後半から小笠原満男が復帰した(おかげで、小笠原の背番号は40!)。小笠原は、そのテクニックと戦術眼は、もちろん超一級である。スペースを見る目。見つけたスペースに正確にパスを通すキックのテクニック……。ただ、汗かきの仕事はしないし、スペースに入り込んで行く動きもあまり起こさない。

一部の人に言わせれば、「それじゃサッカーにはならない」と酷評を受けることもある。つまり、「走らなければサッカーはできないのか」という命題である。

だが、オズバルド・オリベイラ監督は、そういう意見に与しないようだ。なにしろ、このチームの命題はあくまでもポゼッションであり、攻めにスピードは要求されないのである。丁寧に、短いパスをつなぐ。小笠原にうってつけの仕事と言うこともできよう。

33節の浦和戦。追う立場の鹿島が前半から仕掛けて、完全にゲームを支配する。激しくプレッシャーをかけて浦和のミスを誘い、ボールを奪っては、変化のあるパスを通してチャンスを作る。浦和はカウンターやリスタートくらいしかチャンスがない。

だが、鹿島の攻めも、たとえばACL決勝で対戦したセパハン(イラン)のようなスピードはないから、浦和の堅守を崩しきるには至らず、互いに得点の匂いがしないまま、時間が過ぎていく。

たしかに鹿島が攻めてはいるのだが、こういう試合こそ浦和のペースのような気もしてくる。攻められて耐えながら、カウンターを狙う浦和。一方、ボールを支配しながらも、攻めのスピードを欠き、決定機を作れない鹿島。言うならば、ともにそれぞれのチームらしいペースの前半と言ってよかった。

こういう膠着状態はどうやったら破れるのか……。一つは、偶然による、事故のような得点である。1点が入ることで、バランスが崩れて、一転攻め合い、点の取り合いになることがある。そして、膠着状態が破れるもう一つのきっかけが選手の退場である。案の定、扇谷主審が、ついにゲームを動かした。それまでは、浦和のワシントンが興奮気味で、「この辺で何か起こるかな?」と思っていたが、退場になったのは2回目の警告の新井場徹だった。

鹿島が1人減った。リードされているチームが1人減ると、これはもう致命傷だ。だが、同点の場合、あるいはリードしている場合、1人少なくなっても、守備の組織を立て直せば、そのまま試合を終わらせることも可能で、それほど大きな打撃ではない。鹿島は、選手交代はせずに、MFの本山雅志を新井場の代わりにサイドバックにして守備の組織を構築。4−4−2から4−4−1に変更する。

後半は、前半とは様相が異なり、1人少ない鹿島が引いて守ってカウンター狙い。浦和が攻め込む展開となった。だが、浦和にとっても、守りの意識の高くなった鹿島の守備を崩すのはそう容易なことではなかった。しかも、前半は「攻めのスピードが足りない」と思われた鹿島だったが、「カウンター狙い」という意識が高くなり、数少ないチャンスではあるが、攻めに鋭さが出てきたのだ。48分に小笠原がサイドを変えたボールを受けた野沢拓也がドリブルで攻め込んだり、53分にはやはり小笠原のパスを受けたマルキーニョスが突破したりと、鋭い攻めは何度かあった。もちろん、その間、浦和が攻めているのだが、鹿島の選手がシュートコースに体を入れて防ぎ続ける。そして、66分、カウンターから、最後は野沢が抜け出して、鹿島が先制する。

その後は選手交代もうまく使いながら、しっかり守りきってしまったのだ。全体にはスピードに欠ける鹿島の攻めが有効なのは、2列目に入っている本山と野沢が、労を厭わない仕事をしているからだ。長距離を走りきるわけではないが、中盤でパスが回り、ボールが動くたびに、何度も何度も動き直してパスを引き出す動きを繰り返す。野沢が決勝点を決めたのは、そんな精力的な動きをしたことへの褒美のようなものだろう。

もう1人の本山。これは、もう秀逸。2列目として、精力的に動いていたかと思えば、新井場の退場後にはサイドバックとなり、それでも攻撃の局面では中盤に進出し続ける。さらに、メンバー交代に伴って右のMF(ボランチ)。そして、最後はスタート時と同じ左のMFとして、それぞれの時間帯毎に役割を変えながら、チームに貢献し続けたのだ。唯一の得点場面でも、中盤からマルキーニョスに出した本山のパスが、攻撃をスピードアップさせた。

若い頃の本山は、ドリブルが得意だったが、ややもすれば自分勝手なプレーも多く、またシミュレーションで警告を受けることもしょっちゅうというやんちゃな選手だったが、今では酸いも甘いも知った、大人のフットボーラーに成長している。ズバリ、僕のマン・オブ・ザ・マッチは本山雅志である。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授