スポーツ科学研究所とは

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【所長】桜井 智野風
(サクライ トモノブ)

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2008年07月22日

『叫び』とパフォーマンスの関係

先日行われたウィンブルドン選手権の女子シングルス決勝は、アメリカのウィリアムズ姉妹の対決となり、姉のビーナス・ウィリアムズ選手が優勝しました。この対決、プレーとともに驚かされるのは彼女達の叫び声です。同様にロシアのシャラポア選手もストロークする際に大きな叫び声をあげますが、この叫び声はテニスのパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのでしょうか? 今回はこの『叫び』とパフォーマンスの関係ついて考えてみましょう。

筋肉の余裕…。
筋肉は脳の命令によって動くわけですが、実は“全力”を出しているつもりでも、脳の指令の100%が筋肉に届くわけではないのです。私たちの筋肉は断面積から考えると、1平方センチメートル当たり約6kgの力を出せる能力を持っていることが分かっています。しかし実際にこの力を一度に発揮すると、全身の筋肉では計算上約17トンもの力が出ることになり、そんなことが起きれば身体の至る所で腱が切れたり骨が折れたりしてしまいます。
こんなことが起きないように、筋肉に指令を出す神経(※1)は筋肉本来の力の70%程度の力しか発揮できないように筋力を制御しているのです。つまり筋肉は、いつも全力ではなく余裕をもって運動していることになるのです。

火事場のばか力
この「筋肉の余裕」、いわゆる余力である筋力を「火事場のばか力」と呼ぶことがあります。余力の大きさには個人差があり、普段から全力のレベルを上げる練習を積んでいる運動選手は、運動しない人より余力が小さいと言われます。また、男性より女性、若い人より高齢者の方が余力は大きいことも分かっています。アスリートは、この余力である「火事場のばか力」を上手く使うことによってパフォーマンスを向上させているわけです。

シャウト効果
アスリートたちが勝負の場面で「火事場のばか力」を出すためには、神経による筋肉への抑制を弱めなければなりません。その方法の一つとして大きなかけ声をかけること、つまり『叫ぶ』ことがあげられます。これは大声をあげて叫ぶことが、筋力発揮とは別の神経の活動を刺激して、筋肉への神経によるリミッターを解除させるのではないかと考えられているからです。この効果は「シャウト(かけ声)効果」と呼ばれ、テニス選手をはじめとするアスリートに多用されています。特に女子選手に多くみられるのは、男子選手よりも余力が大きいために「火事場のばか力」による効果が大きいためではないかと考えられます。

北京オリンピック注目の『叫び』は!?
北京オリンピックの注目といえば、やはり陸上競技ハンマー投の室伏選手の『叫び』です。投げ終わった後でもハンマーを後ろから声で押しているかのように『叫ぶ』姿は、アテネオリンピック以降とても有名になりました。北京オリンピックでは、ぜひこの『シャウト効果』で彼の胸に2度目の金メダルをもたらすことを願って止みません。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
神経:
ここでは筋肉の動きを制御するための信号を伝達するシステムのこと。脳などの行動のコントロールセンターから離れて筋肉などの末梢に向かう神経を、遠心性神経という名称でも呼ばれている。逆に皮膚や筋肉で得た情報をコントロールセンターに伝える役目を持つ神経を求心性神経と呼ぶ。この神経の活動はトレーニングにより向上するものの、個人差が大きいと言われている。


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