スポーツ科学研究所とは

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桜井所長がスポーツの裏側を解りやすく科学で教えてくれる。もっと楽しく、もっと身近にスポーツを感じること間違いなし!!

【所長】桜井 智野風
(サクライ トモノブ)

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陸上競技のスポーツ科学一覧

2009年03月19日

『東京マラソン2009・・・快適な走破のために』

3月22日に「東京マラソン2009」が開催されます。楽しみに待っている方も多いのではないでしょうか。この大会は6時間かけて完走する一般市民ランナーから、残念ながらこの大会で引退するマラソン日本最高記録保持者の高岡寿成選手まで約3万人が東京の街を走り抜けます。いずれのランナーも42.195kmをいかに効率よくエネルギーを使いながら走るかが記録を出すカギになります。速く走るランナー、遅く走るランナー・・・様々なランナーのカラダの中ではいったい何が起こっているのでしょうか? 今回は東京マラソンを科学してみましょう。

「体重×走った距離=消費エネルギー」???
「体重(kg)×走った距離(km)=消費エネルギー(kcal)」 みなさんも目にしたことがある計算式だと思います。この式によれば、たとえば70kgの人が10km走ると700kcalが消費されることになります。マラソンでは約42kmなので2,940kcalとなります。しかし、この式には時間的な要因が入っていません。マラソンを2時間30分で走るランナーと、2倍の5時間で走るランナーは同じエネルギー量を使うものとは思えませんよね。
では、実際に測定を実施した報告によれば、体重60kg前後の男子でフルマラソンを2時間18分程度で走るランナー(26歳前後)の消費カロリーは2,700kcal程度、同じく体重60kg前後でフルマラソンを6時間程度で走る一般男子ランナー(22歳前後)で約3,600kcalの消費が見られたと報告されています。このように消費されるエネルギーは時間的な影響を色濃く受けることになります。
ちなみに30~40歳代の男性サラリーマンの1日の消費エネルギーは、多くても2,400kcal前後であり、マラソンを走った際の消費エネルギーはこれを越えてしまうことになるわけです。つまり、マラソンを走ることは、1日分のエネルギーが短時間で使われてしまう、私たちのカラダにとって非常に過酷な運動であることがわかりますね。

上り坂と下り坂・・・疲れてしまうのは?
東京マラソンは平坦なコースとはいえ、前半の7km程度で40m程度の高低差を下り、後半の35km過ぎに上りになります。はたして上りと下りではエネルギー消費にどれくらいの差が出るのでしょうか? 図は平坦な道と10%(走行距離100mで10mの高低差)の上り・下りを走った時の消費エネルギーをあらわしています。

マラソン01.jpg

走るスピードが同じ時速10kmでも、上り坂は下り坂を走る約3倍ものエネルギーを消費することになります。そこで「下り坂はエネルギーを使わなくてもいいのか!」と考えがちになりますが、そんなことはありません。下り坂を降りるということは大腿四頭筋や前脛骨筋に大きな負担がかかります。これはエキセントリック収縮(※1)といって筋が伸ばされながら力を出している状態なのです。

マラソン02.jpg

この収縮時には筋線維は損傷を起こしやすく、ダメージも大きくなります。つまり、下り坂はエネルギー消費は大きくないものの、筋肉に対するダメージは大きくなるのです。一度ダメージを受けた筋肉はダメージの修復にもエネルギーを使います。長い時間をかけてマラソンを走破するランナーは長い時間ダメージにさらされ、エネルギー消費も大きくなることになります。これはレース後々の筋肉痛とも関連が深いことも分かってきています。

東京マラソン走破法(科学編)・・・。
エネルギー消費のことから考えれば、マラソンでは普通の1日分程度もしくはそれ以上のエネルギーを使ってしまうので、前日までにしっかりとエネルギー補給を行うことや、走行中での間食等でエネルギーが枯渇しないようにすることを頭に入れておいてください。
筋肉のことを考えれば、前半の下りをあまりハイスピードではなくゆっくりと慎重に下り、ダメージを大きくしないようにすること。これがレース後半の走りを快調にするばかりか、マラソン終了後数日の生活が楽になるはずです。
さあ出場する皆さん、観戦する皆さん、大いに東京マラソンを楽しんでください!
次回も東京マラソンの結果を交えながら、2009東京マラソンを科学してみたいと思います。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
エキセントリック収縮:
負荷がかりながら伸ばされる筋肉の収縮運動。腕相撲で劣勢の時、肘を曲げる方向に力を入れているのに腕は引き伸ばされている。このとき上腕二頭筋(力こぶを作る筋肉)はエキセントリック収縮を起こしているとこになる。

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2008年08月18日

『マラソン選手の水分補給とスペシャルドリンクの謎…その2』

女子マラソンの野口選手の欠場・・・、そして土佐選手の途中棄権、中村選手13位と非常に残念な結果に終わった日本女子マラソンでした。土佐選手のような暑さに強く、粘りがあっても様々な原因が絡まりあい棄権してしまうほどマラソン競技は過酷なスポーツです。さて、前回お話した水分補給の重要性ですが、今回は選手が個別に用意するスペシャルドリンクに関してお話しましょう。

スペシャルドリンクボトルの中身とは?
走っている選手達は、5キロごとの給水地点で各々わかりやすいように目印をつけたボトルを係員などから受け取っているのを見ることがあると思います。各々の選手が準備したスペシャルドリンクですが、いったい中身はどんなものなのでしょうか? マラソンにスペシャルドリンクが登場したのはいつからか定かではありませんが、当初はオレンジジュースや紅茶、コーヒーに炭酸抜きのコーラ等と選手が普段飲み慣れている飲料やそれをアレンジしたものが多かったようです。しかし、近年はスポーツドリンクの研究・開発が進み、多くの選手がスポーツドリンクを使用しています。中にはいくつかの市販のスポーツドリンクを混ぜ合わせてオリジナルドリンクを作成している選手もいます。

どんな成分が良いのか?
前回のコラムでも話しましたが、エネルギー生成の原料となる糖質は高濃度であれば身体への吸収が悪くなります。2~5%程度の濃度が現在のスポーツドリンクの主流です。現在の多くのトップランナーが用いているスペシャルドリンクは、レース序盤の給水ポイントでは、脱水を予防するために身体への吸収の良いもの、つまりは糖をあまり含まず電解質(※1)がバランスよく入ったドリンクを飲んでいます。またレース後半になればなるほど、エネルギーを生産しやすいように糖質の濃度が高いドリンクを飲んでいます。現在もコーヒー、紅茶、コーラ等を好んで選ぶ方もいらっしゃるとは思いますが、これらには利尿作用のあるカフェイン(※2)が含まれており、尿として水分を体外に排出してしまいます。高温の日のレースではカフェインを含む飲料はあまりお勧めできません。

温度は?
脱水になりがちな身体への水分補給という重要な役割があるスペシャルドリンクですから、身体への吸収率が高い飲料がマラソン走行中には適しています。身体への吸収ということを考えると、5℃~15℃程度が最適であるといわれています。そして、最新の研究において37℃よりも4℃の水のほうが身体への吸収も早く体温の上昇を防ぐことが明らかになっています。高温環境でのスポーツ時において、飲み物は冷たすぎると身体に負担がかかるのでは? 逆に体力を消耗するのでは? といったようなこれまでの考えを改めなくてはいけません。

給水の光景が変わった・・・!?
スペシャルドリンクは飲むだけではなく、身体にかけて暑くなった身体を冷やすために使用する選手もいます。つまりは低温を保つ事ができる容器が望まれます。国際陸上競技連盟は、北京五輪のマラソンにおいてスペシャルドリンクの容器について、保冷機能付きの金属製ボトルを使用することを許可しました。つまりは魔法瓶のような硬い容器で冷たいスペシャルドリンクを飲むことができるのですが、今回の女子マラソンではそのような光景を見つけることができましたか? 男子マラソンの時も注目して見てみてください。 


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
電解質:
水に溶けて電気を通すミネラルであるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのこと。電解質は体内の水分に溶けこんでおり、そのバランスは水分のバランスと連動している。我々の身体は血液中の総水分量と電解質濃度を一定に保つように調整している。

<※2>
カフェイン:
コーヒー、コーラ、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ココア、チョコレートなどに含まれる物質。中枢神経系を刺激することが知られ、興奮作用や利尿作用がある。


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2008年08月12日

『マラソン選手の水分補給とスペシャルドリンクの謎…その1』

高温多湿の北京でのマラソンは過酷なレースになりそうです。選手は様々なスペシャルドリンクを用意してこのレースに臨みますが、彼らが口にするドリンクにはどんな秘密が隠されているのでしょうか? 今回から2回にわたって、水分補給とスペシャルドリンクの謎について考えてみたいと思います。

1レースで5kgの汗!? 1時間に1リットルしか飲めない・・・。
人間は高温多湿の条件化で激しい運動を行うと1時間に2~3リットルの汗をかきます。2時間以上走り続けるマラソンにおいてはその量は5リットル以上になることも珍しくありません。重さに換算すると約5kgもの汗をかくことになるのです。それに対して、人間が1時間の運動中に飲める水の量は約1リットル程度と言われています。これは、水分が吸収される前に、胃の中が水で満たされてしまうと、のどの渇きを感じなくなってしまうからです。

つまり、マラソンレースの約2時間で5リットルの汗をかいても、5リットルの水を飲むことは不可能ということです。ちなみに一流選手がマラソン競技中にドリンクとして飲む水分の量はせいぜい1リットルであり、アスリートの身体には大変な水分不足が起こっていることがわかります。

そこでスポーツドリンク! エネルギーか水分か?
そこでなるべく身体に早く吸収され、胃の中に残らないようなドリンクが考えられました。それがスポーツドリンクといわれる飲み物です。体液に近い濃度に調整され、より早く胃の中から血液中に吸収されます。ただ、長時間運動をしていると水分同様エネルギーも補給する必要があります。その為にスポーツドリンクにはエネルギーの原料となる糖質(※1)が5%程度含まれています。しかし、糖質を含む飲料は真水よりも吸収が悪いこともわかっています。吸収が悪くなると、血液の流れが悪くなり、体温を上げてしまう原因にもなります。

様々な研究により、マラソンのように2時間を越えるような持久的運動においては、糖質を含むドリンクに効果があることがわかっていますが、1時間程度もしくはそれよりも少ない時間で終わる種目では糖分を含むドリンクを飲むことは、吸収時間が遅くなり、あまりよい効果がないとも言われています。

スペシャルドリンクはすごい!
水分吸収に重点を置くのか? 後半に備えて糖質を重視するのか? 選手にとってはスペシャルドリンクも戦術の一つになるのです。一流選手が使用しているスペシャルドリンクは食品メーカー、飲料メーカーがアシストし、選手自身にあったオリジナルの飲料を開発し提供しています。その日の天候、気温、体調により含まれる成分を調整する選手もいるようです。今回はここまでにして、さらに詳しいスペシャルドリンクの科学は次回ご紹介します。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
糖質:
炭水化物とも呼ばれ、タンパク質、脂質などと並び身体に重要な物質である。糖質の一種であるグルコースは筋肉の活動エネルギーとなるATPを生産するために不可欠である。

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2008年07月15日

『人類最速記録達成!?』

北京五輪の代表選考会を兼ねた、陸上の全米選手権において驚異的な記録が誕生しました。男子100m決勝でタイソン・ゲイ選手が、追い風4.1mの参考記録(※1)ながら9秒68をマークして優勝したのです。これまで人類が100mを最速で走った記録は、1996年にオバデーレ・トンプソン選手(バルバドス)が、標高1140m(テキサス州エルパソ)の高地で行われた競技会において、追い風5.0mという条件下で樹立した9秒69でした。ゲイ選手は、この100mの人類最速記録を12年ぶりに更新したことになります。

風と100mの記録との関係
吹いている風と記録の関係はどのようになっているのでしょうか? 陸上競技の短距離走では、風速が追い風2.0mを超えると公認記録としては認められず「参考記録」として扱われます。ゲイ選手やトンプソン選手の記録もこのため参考記録となっているのです。ではいったい風は100m走の記録にどれくらいの影響を与えるのでしょうか?

100mを10秒2程度で走るスプリンターをモデルとして考えた報告によると、追い風が1.0m吹くと記録は0.09秒良くなり、逆に向かい風が1.0m吹くと0.10秒悪くなるといわれています。トンプソン選手の記録は追い風5.0mですから、計算上では無風状態で10秒14 [9秒69+(0.09秒×5)] 程度となります。またゲイ選手の記録は追い風4.1mですから、計算上では無風状態で10秒00程度になります。100mの世界記録であるウサイン・ボルト選手の9秒72(追い風1.7m)を、仮に無風状態に計算し直すと、9秒87程度となります。

空気抵抗と100mの記録の関係
1968年に標高2270mのメキシコシティーでメキシコオリンピックが行われました。ここでは、平地に比べ空気の密度は25%程度減少します。これは短距離走には有利となり、100mの記録も1%程度の向上が見られました。
トンプソン選手の記録も標高1140mで生まれたことを考えると、空気抵抗により記録が0.5%程度は良くなっていることが考えられます。つまり平地では9秒74前後の記録であり、追い風の効力もなかったとすれば10秒19程度の記録となります。これに比べ、今回のゲイ選手の記録は標高130mのオレゴン州ユージンで記録されたものであり、空気抵抗によるアドバンテージは考慮しなくてもよいと思われます。

空想の世界で考えると・・・。
では、もし世界最速のスプリンターであるボルト選手が標高2270mのメキシコシティーの競技場で公認記録ぎりぎりの追い風2.0mで走ったとしたら……、世界記録の9秒72を基準に計算してみました。ボルト選手の記録を無風状態に直すと9秒87(前出)、この記録を追い風2.0mに計算し直すと9秒69。この走力でメキシコシティーの競技場を走るとして1%記録を向上させると記録は9秒59! なんと9秒5台に突入です!! そう、人類が100mを9秒5台で走る時代はもうそこまで来ているのかもしれません…。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
参考記録(追風参考記録):
短距離、跳躍系などの風の影響を受けやすい種目は、公平のために追い風2mを超える状況のときは大会の順位としては認められるが、記録としては参考記録となる。混成競技の場合は、追い風4mまでは公認記録とされる。

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2008年07月03日

『100m走と身長との間の関係は?』

先日アメリカで行われたリーボック国際陸上競技大会においてジャマイカのウサイン・ボルトが100mを9秒72というすばらしい世界最高記録で走り抜けました。この選手、身長が196cm、脚の長さも約1m弱の長身です。一般的に身長が高い人は100mのような瞬発的な種目に向かないと思われていますが、果たして身長と100m走の間にはどのような関係があるのでしょうか?

世界の一流スプリンターの平均身長
過去の100mで1968年以降(9秒台)の世界記録保持者の身長を調べてみると、ほとんどが170~180cm台であり、190cmを大きく上回る選手は彼が初めてです。今年度の100mの世界上位10位にランキングされる選手の平均身長は約182cm、同じように200mは約185cmと少々200m選手の方が高い傾向にありますが、190cmを越える選手はまだまだ稀です。

速く走るための条件
ヒトが速く走るためには大きく2つの条件が影響します。一つはストライド(歩幅)、もう一つはピッチ(回転数)です。当然、大きな歩幅で回転数をあげれば速く走れるわけですが、どちらか一方だけでも向上すれば記録の伸びは期待できます。

高い身長の人は動きが鈍いのか・・・?
「身体が大きい人は動作が鈍いから・・・」とよく言われます。本当にそうなのでしょうか? 走っている選手の脚の動きをよく調べてみると、ピッチの速さを導き出す股関節周りの角速度(※1)は、身長の高い選手も低い選手もあまり変わりません。
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例えば、前回のアテネオリンピック100m日本代表であった171cmの土江選手は、1秒間に約5.3歩のピッチを誇り世界でも最も速いピッチといわれていました。世界の一流選手を見ると、昨年の大阪世界陸上100mで優勝した183cmのタイソン・ゲイは1秒間に4.9歩。前100m世界記録保持者の190cmのアサハ・パウエルは1秒間に5.0歩とピッチにそれほどの差がないことがわかりますね。ヒトのピッチは、どんなに速くとも1秒間に約5歩が限界といわれています。

ストライドの差が100mで…
日本の陸上短距離界のエースである末續選手の身長は178cmであり、推定した脚の長さは約80cmです。これに対し、世界記録を樹立したウサイン・ボルトは196cmで推定は93cmとなります。末續選手のストライドは最大で250cmといわれますので、同じ比率でボルト選手のストライドを計算すると、290cmとなります。なんとその差は1歩で40cm! 単純にこの差で100mを走るとすれば、100mで3~4歩の差がついてしまいます。

つまりは、動きが鈍く見える身長の高い選手でも、脚のピッチさえ落とさなければ、ストライドの違いによって、短距離走においても相当なアドバンテージとなり得るのです。
ウサイン・ボルトの世界新記録は、今後の陸上界に長身スプリンターが現れる幕開けかもしれません。オリンピックでの世界最速の熱き戦い、そして世界新記録に期待しましょう。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
角速度:
物体の回転の速さのことで、1秒間に進む角度のこと。


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2008年03月04日

『なぜ、マラソン選手は倒れてしまうのか?』

お正月の箱根駅伝や、先日の大阪国際女子マラソンの福士選手(※1)に見られるようなレース途中でのアクシデント……。テレビのアナウンサーや解説者は「あー脱水症状ですね……」と話しているが、なぜあのような症状が引き起こされるのか? 今回は、最近皆さんがよく目にしている、駅伝やマラソンでのレース途中のアクシデントについて科学的に紐解いてみましょう!

そもそも脱水症とは?
脱水症というと、「暑い環境で起こるもの」という概念がありませんか? 
しかし、寒い中でも脱水症は発生します。気温が低い中でのスポーツ活動は、「暑くないから喉は渇かないだろう……」と水を用意せず飲まないことがありますよね。特に冬は水を飲まないことに加え、乾燥した空気の中で運動することで汗をかいてもすぐに蒸発してしまい、汗をかいている自覚が無いことが多いのです。汗をかいているのに水分を摂取しなければ・・・当然脱水になるわけです。

選手はレース前に水を飲まないの?
「脱水症状」と聞くと、「水を飲まないからなるんでしょ」と考える方も多いと思います。確かに水を飲まないで運動するとなりやすい事は確かですが、十分な水を飲んでいるのに脱水症状に陥る事もあるんです。世界一流のランナーである福士選手や1ヶ月に何百kmのランニングを練習としてこなす大学の駅伝ランナーが、小学生やランニング初心者のように水を飲まずにレースに臨むことなどありえません。ではなぜ脱水症状になるのでしょう?

緊張がもたらすエネルギーの蓄積不足
「食後はリラックスしていた方が消化吸収にはいい」などということは、皆さんも良くご存知だと思います。これは気持ちを穏やかにすることにより自律神経のひとつである副交感神経が働き、内臓の臓器の活動が活発になるからです。しかし極度の緊張状態におかれると、もうひとつの自律神経である交感神経が活発に働き食べた食物の消化吸収を妨げます。これはどんなに栄養のある食物を食べてもその栄養を通常のように吸収できず、エネルギー(特にパワーの源である「糖」)の蓄積に支障をきたすことも考えられます。テレビに中継され注目を集める箱根駅伝やマラソンは、参加選手たちへ過度の緊張を与えていることは十分に考えられます。

気温差が招くエネルギー消費の増大
人間は気温が低く寒い状態におかれると、体温を維持するために様々な行動をとります。そのひとつに「シバリング」があります。このシバリングとは意識しなくても身体がブルブル、ガタガタと震える状態を言います。このシバリング時に使われるエネルギーは脂肪ではなく「糖」なのです。糖は食物として食べる事により筋肉中や肝臓に蓄積されますが、蓄積できる量に限界があります。人間の脳はエネルギーとして糖を使いますので、糖の不足は思考能力の低下にもつながります。レースへの緊張から食べた糖がエネルギーとして蓄積できていない状態に加え、寒さに打ち勝つために過剰に糖を消費したり、レース前半にハイペースで走るあまり、筋肉はハイパワーな出力を強いられ糖を多量に使用してしまえば、脳の機能にも影響を及ぼす事になるわけです。選手が自分の意思で立ち上がれないほどになってしまうのは単なる筋肉の疲労だけでなく、脳から全身への命令機能が低下していることも考えられるわけです。

どうすればいいのか?
単なる水(ミネラルウォーター)の摂取だけでなく、容易に消化吸収できるような液体の栄養飲料水を利用することです。辛くなりかけている選手にはミネラルウォーターを提供するのではなく、糖質を含む飲料を摂取させることが重要でしょう。

3月9日の『名古屋国際女子マラソン』に注目!
さて待望のオリンピック女子マラソンの最終選考レースですが、気候的に涼しい状態であれば誰でも勝つ可能性があるのではないでしょうか。しかし、少しでも気温が上がったり湿度が高かったりした場合は、過酷な状態のレースで勝った経験があり、緊張などにより無駄なエネルギーを使うことが少ないであろうベテランの高橋、原選手あたりが有利になるかもしれません……。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
■福士選手:
本名、福士加代子(ふくしかよこ)。青森県五所川原工業高校出身で、現在は実業団のワコールに所属。3000m、5000m、ハーフマラソンで日本記録を持つ日本陸上長距離界のエースで、北京オリンピックはトラック種目での出場を目指す。インタビューなどでのパフォーマンスも注目されている。

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