2008年03月31日
『モーグルは繊細で緻密な競技である』
ワールドカップスキーのモーグル競技で総合優勝を決めた上村愛子選手おめでとうございます! 全長約250メートル、平均斜度28度の斜面に、腰から胸くらいの深さのコブだらけのコースを滑り降り、ターン技術、エア演技、スピードを競うモーグル競技・・・。強い選手はいったい何が違うのでしょうか? 今回はモーグル競技のパフォーマンスに隠された秘密を科学的に紐解いてみましょう!
用具も違う
一般のアルペンスキーと比べるとモーグル競技のストックはかなり短く、ブーツや板のフレックスは柔らかに出来ています。コブを滑る時は前後のバランスが取りにくいためにスキー板がやや長く、ずらしやすくするため板のサイドカーブがあまりありません。このように競技にあった用具も開発され、その技の難度は年々高く、また過激になる一方のようです。
巧緻性・・・?
アルペンスキーのダウンヒル競技には多くの体力要素が必要とされます。一定でない雪の斜面に対応しながら、1秒の100分の何秒単位という短い時間で力の入れ具合やバランスを修正し、出力しなければなりません。これがモーグルになればその度合いも倍増します。バランスを大きく崩すコブの存在には、正確で俊敏な判断能力が要求され、その判断による脳からの指令をいかに速く筋肉に伝達するかが、正確な加重やコース取りに影響を及ぼすわけです。この能力ですが、「巧緻性」や「巧みさ」といわれています。世間一般にはカラダを器用にうごかす能力のことを指し、鉛筆を持って字を上手く書く能力や、ボールを綺麗なフォームで投げる能力、サッカーのボールを綺麗に蹴る能力などは巧緻性が多く関与しているといわれています。
トレーニングにより巧みさは上達するのか?
ぎこちない滑りは、滑りには必要のない筋肉が運動に関与していたり、必要な筋肉が上手く使われていない、または逆に必要以上に力を出し過ぎている可能性があります。あるいは、筋肉の収縮時間や収縮のタイミングがスムーズに行われていないことが考えられます。日々のトレーニングはこれらが無意識に近い状態でできるように「神経(脳)と筋の調整能力」を向上させているわけです。
一方で、筋肉が発する力が大きくなればなるほど、同じ動作を正確に繰り返すことは難しくなります。筋力をアップさせ同じワザを以前より小さな筋力で滑れるようになることで、練習してきた滑りを試合で正確に繰りかえすことが容易になります。例えばバスケットボールのセットショットでは、腕だけでなく腿・体幹など全身の筋力を向上させることによりショットの成功率が高くなるのもこの効果によるものです。このように運動の正確性は、その動作に関与している筋群の中でも弱い筋に影響されますので、弱点とする筋をトレーニングする必要があります。
一流選手は、ターンやジャンプに関与する筋群を知り、さらに弱い筋を意識してトレーニングすることにより、100分の1秒単位の中で100%の筋力を瞬時に出し入れするような要求に対応できる「究極の巧緻性」を持ち合わせることが出来るのでしょう。まさにモーグル競技は繊細で緻密な究極の巧緻性が必要とされる種目なのです。
大事なのは見てくれるヒト
いくらたくさんのトレーニングを積んでも、動きがどうであるかのフィードバック(※1)が無い事には、滑りやエアの精度は上がりません。動きを見て「ここの動きのときにここの筋肉を使えばいい」とか、「この踏み切りは速すぎるので曲げたひざをもう少し我慢してから伸ばせばいい」など、しっかりとしたアドバイスをくれるコーチやビデオ撮影のスタッフがいるからこそ、適切なフィードバックがもらえるのです。最高時速30キロ程度で滑り飛ぶ競技では、細かな目を持ったスタッフの存在が無ければ着実で巧みな技術進歩はありえません。上村選手にはこの環境も整っているからこそ、世界の頂点に立つ事ができたのでしょうね。
なるほど!ザ!スポーツ用語辞典
<※1>
■フィードバック:
もともとは情報分野の専門用語で、出力された結果を入力する側に戻すことをいう。スポーツにおけるフィードバックとは、目標とする技術・戦術に対して、練習や試合での結果の「どこが悪いのか、どこを改良すればよいのか」を、選手側に教え考えさせる事により、目標値と「ズレ」を認識させ、次の練習や試合に役立てることを言う。
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2008年02月13日
『スキージャンプ選手のスーツの謎って・・・?』
『スキージャンプ選手のスーツの謎って・・・?』
さあスキーシーズン真只中!今年もワールドカップでの日本スキーチームの活躍に期待したいところです。特に復調の兆しが見える日本ジャンプ陣に大いなるエールを贈りましょう!
長野はブカブカ、今は……
さて、そんなスキージャンプですが、選手が身にまとっているウェアーをご存知ですか?“ジャンプスーツ”と呼びますが、長野オリンピックの頃と現在とでは少し変わったのに気がついているでしょうか? 一昔前はちょっとブカブカで、水泳の水着のようにフィットしているわけでもなく、厚くて重そうに見えました。しかし、現在のスーツは身体にフィットしていて、薄手になっているんです。以前の生地の厚みは10mmまでOKでしたが現在は5mmまでに制限されています。
このスーツにはどんな謎があるのでしょうか?
ジャンプスーツにも及んだ、ルール改定
皆さんは長野オリンピックの後、ジャンプの板の長さに関するルールが改定されたとこはご存知でしょう。しかし同時にあのジャンプスーツにも、飛びすぎ抑制と風による飛距離の影響を低くするため、スーツの空気力学的効率を悪くする新たなルール改訂があったのです! このためスーツは独自のデザインや素材で作成する事ができなくなりました。スキージャンプ競技は飛ぶ距離を競うものですので、空中に浮いている時間が長ければ長いほど記録に有利となります。つまり凧のように大きく膨らみ、パラシュートのように空気を逃がさないスーツが理想ですが、改定されたルールでは先ほど話したような生地の厚みや、素材表面のコーティングの禁止、ジッパーの幅は10mm以下、身体とスーツのゆとりはわきの下、股下全てにわたり6cm以下など、事細かに決められているのです。
もうひとつ、新しく規定されたルールには選手の身長だけでなくBMI(※1)の規定も設定され、指数が20以下の場合、スーキー板の長さを短くしなくてはならないのです。身長だけでなく体重も規定されるルール内で選手はなるべく身体を軽くするために、ジャンプスーツの下に下着を着用しない選手もいるとかいないとか・・・。
生地が薄くなる=飛距離が伸びない
たとえばスーツの脇の下や股の下がダブダブでたるんでいると、そこに風を受ける事ができ身体を空中に浮かせる力が大きくなります。またスーツの襟の部分が大きくなったり、スーツの前に付いているジッパーの布部分が大きくなればスーツ内に空気がたくさん入り、風船のように膨らんで選手に有利となります。事実昔には、前面は通気性が高く背面には通気性が低い生地を使う事により、飛行中に前から入った空気が背中に溜まり風船のように膨らむスーツがあったようですが当然今は着ることができません。生地が薄くなる事により、スーツの表面に微細な凸凹ができたり、スーツの背面の布地が飛行中にはためいたりするとそこに気流の渦が出来ます。これは飛距離が伸びない要因となるんです。
ルールとの戦い
スキージャンプの科学はこのような「飛ばせない」ためのルールとの戦いです。スロープを滑り降りる助走時は、滑降スピードを上げるために空気の抵抗を小さくするための工夫が必要であり、ひとたび踏み切って飛び出せば、空気への抵抗を大きくして空中に浮いている時間を稼ごうとする。規定された生地素材を使用してこの矛盾に立ち向かわなくてはならなりません。各国の各スポーツメーカーはこのようなジャンプスーツの開発競争を通じて競技記録の向上をサポートしているんですね。もちろん「飛ばない」スーツを身にまとい、選手や彼らを取り巻くコーチは「飛ぶため」技術改良に励んでいます。
その秘密はまたの機会に詳しく・・・。
なるほど!ザ!スポーツ用語辞典
<※1>
■BMI(Body Mass Index):
BMIはボディ・マス・インデックスと言い、体重と身長から導き出す体格指数のこと。
1999年にWHOより基準が発表されており、数値から肥満度などが解る。
日本肥満学会では「22」が標準値とされている。
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<BMIの求め方>
BMI=体重(kg)÷〔身長(m)×身長(m)〕
例えば、身長167cmで体重62kgある人のBMIは…
※62kg÷(1.67m×1.67m)=22.2
この場合、BMIが「22」なので標準ということになります。
<BMI判定のめやす>
18.5未満:やせ
18.5~25未満:標準
25~30未満:肥満(1度)
30~35未満:肥満(2度)
35~40未満:肥満(3度)
40以上:肥満(4度)
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