スポーツ科学研究所とは

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【所長】桜井 智野風
(サクライ トモノブ)

桜井 智野風 プロフィール
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2008年07月15日

『人類最速記録達成!?』

北京五輪の代表選考会を兼ねた、陸上の全米選手権において驚異的な記録が誕生しました。男子100m決勝でタイソン・ゲイ選手が、追い風4.1mの参考記録(※1)ながら9秒68をマークして優勝したのです。これまで人類が100mを最速で走った記録は、1996年にオバデーレ・トンプソン選手(バルバドス)が、標高1140m(テキサス州エルパソ)の高地で行われた競技会において、追い風5.0mという条件下で樹立した9秒69でした。ゲイ選手は、この100mの人類最速記録を12年ぶりに更新したことになります。

風と100mの記録との関係
吹いている風と記録の関係はどのようになっているのでしょうか? 陸上競技の短距離走では、風速が追い風2.0mを超えると公認記録としては認められず「参考記録」として扱われます。ゲイ選手やトンプソン選手の記録もこのため参考記録となっているのです。ではいったい風は100m走の記録にどれくらいの影響を与えるのでしょうか?

100mを10秒2程度で走るスプリンターをモデルとして考えた報告によると、追い風が1.0m吹くと記録は0.09秒良くなり、逆に向かい風が1.0m吹くと0.10秒悪くなるといわれています。トンプソン選手の記録は追い風5.0mですから、計算上では無風状態で10秒14 [9秒69+(0.09秒×5)] 程度となります。またゲイ選手の記録は追い風4.1mですから、計算上では無風状態で10秒00程度になります。100mの世界記録であるウサイン・ボルト選手の9秒72(追い風1.7m)を、仮に無風状態に計算し直すと、9秒87程度となります。

空気抵抗と100mの記録の関係
1968年に標高2270mのメキシコシティーでメキシコオリンピックが行われました。ここでは、平地に比べ空気の密度は25%程度減少します。これは短距離走には有利となり、100mの記録も1%程度の向上が見られました。
トンプソン選手の記録も標高1140mで生まれたことを考えると、空気抵抗により記録が0.5%程度は良くなっていることが考えられます。つまり平地では9秒74前後の記録であり、追い風の効力もなかったとすれば10秒19程度の記録となります。これに比べ、今回のゲイ選手の記録は標高130mのオレゴン州ユージンで記録されたものであり、空気抵抗によるアドバンテージは考慮しなくてもよいと思われます。

空想の世界で考えると・・・。
では、もし世界最速のスプリンターであるボルト選手が標高2270mのメキシコシティーの競技場で公認記録ぎりぎりの追い風2.0mで走ったとしたら……、世界記録の9秒72を基準に計算してみました。ボルト選手の記録を無風状態に直すと9秒87(前出)、この記録を追い風2.0mに計算し直すと9秒69。この走力でメキシコシティーの競技場を走るとして1%記録を向上させると記録は9秒59! なんと9秒5台に突入です!! そう、人類が100mを9秒5台で走る時代はもうそこまで来ているのかもしれません…。


なるほど!ザ!スポーツ用語辞典

<※1>
参考記録(追風参考記録):
短距離、跳躍系などの風の影響を受けやすい種目は、公平のために追い風2mを超える状況のときは大会の順位としては認められるが、記録としては参考記録となる。混成競技の場合は、追い風4mまでは公認記録とされる。

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