ツール・ド・フランス2023

ABOUT
ツール・ド・フランスとは

ツールがやってきた


ツール・ド・フランスとは

ツール・ド・フランスとは 栄誉ある「マイヨ・ジョーヌ」こと、黄色に輝くリーダージャージを目指して男たちが凌ぎを削る

夏の大型バカンスを迎えたフランスにゆったりとした時が流れ、その豊かな大地が向日葵の黄色に染まりだす頃……シーズン最高峰の自転車ロードレース大会が幕を明ける。世界トップレベルの選手たちだけに許された、栄光のマイヨ・ジョーヌ争奪戦。1903年に産声をあげたフランス一周は、毎年7月、通算1200万人もの観客をコース沿道に誘い出し、地上190を超える国の自転車ファンをTVの前で熱狂させる。

オリンピック、サッカー・ワールドカップに続くビッグスポーツイベントとさえ呼ばれ、毎年開催される無料のスペクタクルとしては、文句なしに世界最大規模。なにしろ21日間かけて、町から町へ、山を越え谷を越え、自転車でフランス全土を駆け巡るのだ。その活動範囲は時に国境線をも越える。1954年には大会史上初めて国外(オランダ)で開幕し、昨夏は大会史上最北の地コペンハーゲンがツール一行を歓迎した。そして今年2023年は、実に31年ぶりに、スペインのバスク地方からプロトンは走り出す。

「史上最も山の多い大会」と、開催委員長クリスティアン・プリュドムは自信を持って宣言する。その通り、第110回大会は、ビルバオを起点とする初日からいきなり5つの山岳が組み込まれた。大会1枚目のイエロージャージを手にするためには、絶対条件として、上れる脚を持たねばならない。「1ヶ月早いクラシカ・サンセバスティアン」と呼ばれる第2ステージもまた、同数の山岳と幾多のアップダウンが待ち受ける。ようやくスプリンター向けに道が平坦になるのは、大会3日目になってから。

その後フランス南西から中東部まで、全長約3400kmかけて、8つの平坦ステージ、4つの起伏ステージ、8つの山岳ステージ(山頂フィニッシュ4回)、1つの個人タイムトライアルをこなす。なによりピレネー、中央、ジュラ、アルプス、ヴォージュと、フランスの5つの山脈をあまねく巡り、カテゴリー2級以上に指定された難関山岳は史上最多の30にも至るという。だからこそ大会5日目で早くもピレネーに足を踏み入れるし、6日目には、超級トゥルマレ登坂を含む難関山岳ステージが総合優勝候補をあぶり出す。

ただし大会最初のクライマックスは、間違いなく、第1週目の終わりにやってくる。それが3年半前に天に召された「国民的ププ」レイモン・プリドール──マチュー・ファンデルプールの祖父──が、生前に暮らしたサン・レオナール・ド・ノブラと、ツール総合5勝のジャック・アンクティルと1964年にかの有名な一騎打ちを繰り広げた中央山塊ピュイ・ド・ドームとを結ぶ第9ステージだ。ユネスコ世界遺産に登録され、普段は自転車侵入禁止の伝説の山は、なんと35年ぶりにツールのプロトンを迎え入れる!

大会2週目の半ばの7月14日=革命記念日には、近年すっかり常連となった、ジュラ山塊のグラン・コロンビエの山頂で勝負を争う。そして翌日の第14ステージからは、たっぷり4日間にもわたって、アルプスで壮絶なバトルが繰り広げられる。しかも2回目の休息日前の山頂フィニッシュでモンブランを拝んだら、休息日明けは「山岳」個人タイムトライアル。ストップウォッチと対峙する今大会唯一の機会には、1980年にベルナール・イノーがアルカンシェル獲得に向け飛び立った、かの有名なドマンシー坂が含まれる。ちなみに開催元オート・サヴォワ県はロード・MTB・トライアル・BMX・トラック・グラベル…etc.合同で行われる2027年UCI「スーパー」世界選手権の会場予定地でもあり、今回のツールは、来る虹色争奪戦に向けた実地訓練となる!

例年以上に濃厚なアルプス越えは、3年前にツールに初めて登場したばかりの「未来の山」、恐ろしきロズ峠で締めくくられる。今大会の最高標高地点2304mに位置し、大会創設者アンリ・デグランジュの名を冠した記念賞が懸けられ、山岳ポイントが2倍となり、なにより山頂までの5kmが平均勾配10%という常軌を逸したこの山は、山岳賞マイヨ・ア・ポワはもちろん、マイヨ・ジョーヌの行方をも大きく左右するはずだ。

もちろんパリのフィニッシュラインまでは、いまだ4日も残されている。「サスペンスで幕を明け、できるだけ長くサスペンスを維持すること」をモットーに掲げる開催委員会は、第20ステージに、大逆転劇も可能な難関ステージをぶつけてきた。全長133.5kmのコースには、6つの山がぎゅうぎゅう詰め。しかも最終2つは1級山岳で、1年前には女子ツール初代女王アネミエク・ファンフルーテンが、あらゆるライバルたちを置き去りにした地だ。また3年前の同じヴォージュ山塊では、忘れもしない、最終日前夜にタデイ・ポガチャルがまさかの逆転総合優勝をさらっている!

フィナーレはおなじみ、パリのシャンゼリゼ大通りでの大集団フィニッシュ。完走したすべての選手にとっての晴れ舞台であり、ポイント賞マイヨ・ヴェール着用者を筆頭に、ひときわ山の多い3週間を生き延びてきたスプリンターたちにとっては、至高の狩場に違いない。ちょうど1年前、この「世界で一番美しい大通り」から、女子プロトンが8日間の冒険へと走り出した。一方で今年2023年の7月の終わり、第2回ツール・ド・フランス・ファムの美しく強き女性チャンピオンたちは、中央山塊のクレルモン・フェランに集結する。そう、「4週目のツール」もまた、それまでの3週間に負けず劣らず山の多い戦いとなるのだ。

text:宮本あさか

SHARE

  • Facebook
  • LINE
  • Twitter