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素晴らしきスケーターの系譜

最終回 ステップ編 その2

2011年04月04日

4月24日からモスクワで開催される世界選手権。どのような戦いになるのかが楽しみです。氷上の音楽表現や勝負の分かれ目となる大事なファクター・ステップはというと・・・

 ステップといえば真っ先に頭に浮かぶのが伝説のスケーター、ジョン・カリーです。ステップから繰り出される表現が秀逸で、当時のフィギュアスケート界でも衝撃でしたが、いまだに別格といえます。彼の流れを汲んだのが、カート・ブラウニング。リレハンメル・オリンピックのフリーでは、プログラムの前半に難しいジャンプをたくさん入れ、後半にはカートらしいリズム表現をステップで披露。フットワークを見せるステップはもちろん、ひとつひとつの動きの間のとりかたなど、観る者を惹きつけました。ステップは確かな技術なしにはできませんが、大事なのは技術だけではなくその上にある表現です。人が心動かされるのも、表現までできてこそです。ジョン・カリーにもカート・ブラウニングにもそれがありました。
 その点で行くと、フィリップ・キャンデロロやアレクセイ・ヤグディンもステップの名手です。長野オリンピックのキャンデロロの三銃士はプログラムの特徴をステップで見事に表現。まるで決闘の相手がそこにいるかのような演技はジャッジにも観客にも大きな感銘を与えました。今のルールですと彼のステップはレベル1−2なのですが、音の強弱にピタリとあった舞いはレベルや世代をも越えて人に感動を与えることでしょう。同様にヤグディンのステップもエッジが必ずしも正確ではなく、難しいターンを入れているわけでもありませんでした。しかし、楽曲の特徴をとらえた動き、音をつかんで離さないエネルギッシュで激しい滑りは彼ならでは。彼の個性がきちんと反映されたステップの表現は、観る者を惹きつけました。

 現在、ステップといえばもちろん高橋大輔です。もともとスケート全般において技術が高くうまい彼。どれもが彼だからこそ滑ることのできるプログラムですし、彼の大きな強さでもある豊かな表現力も加わり、ステップで右に出る選手はいません。ステップは楽曲とレベルの組合せがとても難しい技。エッジに乗るタイミングやリズムなど音楽のタイミングと表現を合わせるのはもちろん、レベルをとるためにたくさんのステップを入れなくてはなりません。その困難な課題をクリアした上で、あれほどの魅せるステップができるのは今は高橋しかいないでしょう。
 今年からステップはひとつのステップがレベルなしのフリーになり、エレメンツが減った分、それぞれのプログラムにあった自由なステップ表現が可能になりました。これによりステップによる表現がもっと豊かによりステキなものにこれからも変わっていって欲しいです。パトリック・チャンや小塚崇彦もステップは上手です。しかし、テクニカルこそいいのですが、まだ観衆の心を惹きつけるような表現まで到達していないように思います。今後、フリーのステップをどう生かして行くかも課題になってゆくでしょう。
 モスクワで開催となる世界選手権で、日本人選手それぞれ個性のあるステップを見るのが今から楽しみです。震災で世界中から日本に注目の集まる今、どの選手もがここでできる力の限りを見せてくれると思います。


(解説:藤森 美恵子)

   ----------今回でこのブログの連載は終了となります。ありがとうございました。----------

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東北関東大震災によせて

2011年03月23日

 東北地方太平洋沖地震により被災された皆さま、ご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げますとともに、被災された地域の一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。
 今回は延期となった世界選手権について、解説者・杉田 秀男さんにコメントをいただきましたのでご紹介させていただきます。


   私は長い間フィギュアスケートに携わってきましたが、今回のようなことは初めてです。延期となった世界選手権は自国開催で日本フィギュア界最強メンバーが臨む大会ということで、大きな期待を寄せていましたし、選手たちもその期待に応えたいと強く思っていただけに、本当に残念です。私はこんな凄い機会はもうないかもしれないと全部の試合のチケットを購入し心待ちにしていました。しかし、万全な体制で大会を開催できる見込みのない現在、日本開催を辞退したことはいい決断だと思っています。

 大会の開催は出場する選手のためでもありますが、多くの選手とスタッフを迎える体制、会場の規模や環境、スタンドの観客やTVでの放映、さらには開催のための資金源となる広告やスポンサーなどまで、大会にまつわるすべての事柄が関係するため、延期や新たな開催地、開催時期の決定はとても困難です。選手たちのためを思えば、少しでも早く次の目標となる試合が決定することを願います。どこでいつ開催されても、選手たちの練習を積み重ねて身につけた技術はブレることはありません。ただ、開催時期や大会の環境によって心配となるのは、選手の体調面や精神面などのコンディショニングです。開催が決まっていない今は特に調整が大変難しいですし、決まったとしても試合に向けての気持ちの持って行き方などは、いままでとは時期や内容も全く異なってくることでしょう。シーズン初めの開催になると、プログラムをどうするかというのがあります。新しいプログラムを滑るとしたら、まだ準備や調子があがっていない中での戦いになりますし、今シーズンのプログラムを滑るとしたら、次シーズンのプログラムとあわせて練習を行わなければなりません。シーズン終盤に向けて段々とプログラムの完成度を高め、試合ごとにシーズンベストを出してゆくような現在の戦いの流れからすると、どちらにせよ選手にとっては大変な試練となるでしょう。シーズン中にプログラム変更もありますし、複数のショープログラムやエキシビションなど、並行していくつものプログラムを滑る経験をしている選手もいますが、それでも難しいことに変わりはありません。

 世界選手権に出場する日本人選手の男女6名は、それぞれ個性が異なりそれぞれが本当に素晴らしいです。高橋大輔は王者でありながらもこれからもっと円熟味が増してまだまだパワーアップしてゆきます。織田信成も安定したジャンプと彼らしい演技をこれからも見せてくれることでしょう。彼らに続く、小塚崇彦は成長の途中。技術も表現もまだまだこれから大きく伸びてゆきますし、個性もさらに発揮されて戦いを面白くしてゆくでしょう。女子の3人も本当に凄い。技術も表現も安定した安藤美姫は年齢はまだまだ若いものの、精神的に充実しているのが演技にも出ています。浅田真央は今シーズン苦しんだ悩みから解放されて、これからはよくなる一方。どこまで行くのかが実に楽しみな選手です。そして、村上佳菜子。今はスケートが楽しくてしょうがなく、怖いものなしな時期。誰にも止められない彼女の勢いは他の選手にとって脅威でしょう。

 選手は試合があってこそ初めて評価が出ますから、どんな形であろうと試合に出てベストを尽くして欲しい。それは日本人選手に限らず、どの選手にも今回の件を乗り越えてさらに素晴らしい演技を見せてくれることを期待しています。もちろん、日本代表6選手は必ずやってくれると信じています。それは彼らが信じられる素晴らしい選手たちだからこそです。今回の代表だけでなく、鈴木明子も羽生結弦もいますし、ジュニア、オービスまで日本フィギュアはこの先も楽しみなことがたくさんあります。日本フィギュアのこれからを信じて見てゆきたいです。

(解説:杉田 秀男)

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東北関東大震災によせて

2011年03月21日

 東北地方太平洋沖地震により被災された皆さま、ご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げますとともに、被災された地域の一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。
 今回は延期となった世界選手権について、解説者・藤森 美恵子さんにコメントをいただきましたのでご紹介させていただきます。


 101年あるISUの歴史の中で過去に世界選手権が中止になったことが1度だけありました。それは1961年サベナ航空548便墜落事故の時でした。世界選手権に向かうアメリカチームが搭乗していて全員が犠牲となり、大会は中止となりました。
 翌年の1962年チェコでの世界選手権で日本はシングル、ペア、アイスダンスすべての競技に選手をエントリー。その際、アイスダンスに出場する私や現在小塚崇彦と浅田真央をみている佐藤信夫が選手として、ユニバーシアード大会のあったスイスから世界選手権の開催地・チェコに飛行機で移動をしました。その飛行機はアメリカチームの飛行機墜落事故現場の上空を飛び、その場所で一緒に搭乗していたフランスチームのアラン・カルマが胸で十字を切って冥福を祈り、他の選手もそれに続きました。
 今回、世界選手権の開催が延期になり私の中ではその50年前の思い出がよみがえりました。悪夢のような大災害、被災地の方々のご無事と亡くなられた方々の冥福を祈らずにはいられません。

 私はフランスに向かう飛行機に乗っている時に地震があり、乗り継ぎ地のロンドンのニュースでこの災害を知りました。到着したフランスでは誰もが日本のことを気遣い心配してくれました。みなさんが声をかけてくださり、手を差し伸べてくださり、日本を応援してくれています。

 バンクーバーオリンピックの後、ISUはルールの改正を行いました。これによって、どの競技も演技の完成度が求められ、さらにハイレベルな戦いとなったのが今シーズンでした。特に男子シングルでは4回転への挑戦が大きく、シーズンが終盤になるにつれて安定してきた選手もいたため、世界選手権はとても楽しみでした。女子シングルでは、浅田真央、安藤美姫の世界チャンピオンホルダーがさらに磨きをかけた演技を見せる上に、バンクーバー以来の大会出場となるキム・ヨナなど注目度の高い大会でした。アイスダンスはコンパルソリーダンスのない初めての大会になるということでショートダンスがどうなるかに注目が集まっていました。デービス・ホワイト組やケガから復帰したテッサ組など見どころがたくさんありました。今シーズンの締めくくりとしてハイレベルな戦いが予想されていましたし、日本に関して言えば、表彰台を狙える選手ばかりが顔をそろえる日本史上最強チームで、しかも開催が東京ということで、今回の世界選手権に対する期待はとても大きなものでした。それだけに開催の延期は本当に残念でなりません。

 しかし、今はただただ被災地のいち早い復興を願うばかりです。

 そして、延期となった世界選手権(今秋開催で現在調整中)と来年フランス・ニースで行われる世界選手権ですが、選手たちは2シーズン分の力をここで思いっきり出して欲しいと思います。特にフランスは、日本チームにとてはラッキープレイスです。1989年パリでの世界選手権では伊藤みどりが女子シングルで初優勝を獲得しましたし、キャンデ・ロロは日本での人気や評価がフランスでのムーブメントを起こすきっかけとなりました。そういった意味でもさまざまな点でフィギュアではフランスと日本は関係しています。それを力にかえることが次のニースでの世界選手権になると思います。今回の震災で世界中に注目される中、日本史上最強チームには1年後、勝利の女神が大きく微笑んでくれるでしょう。

(解説:藤森 美恵子)

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第13回 ステップ編 その1

2011年03月14日

エッジの様々な場所に体重をのせ、方向を変えて魅せるエッジワーク。このエッジワークを使った技がステップです。 現在はひとつのプログラムにいままでより高度で、そしてよりたくさんのステップが取り入れられています。

 プログラムの中で長い見せ場となるステップは、表現の完成度を上げるのにとても大事です。膝や足首の柔軟性が必要で、バランス感覚も不可欠です。このステップ技術を見るならステップワークとリフトで競うアイスダンスがおすすめです。最近シングルで行なわれている音楽表現としてのステップは、アイスダンスでは以前から行なわれていました。現在、シングルで複雑で高度な振り付けを担当しているのは、アイスダンス出身の方が多いのもそういった点にあります。
 バンクーバー・オリンピックで圧巻だったのが、カナダのテッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア組のフラメンコ。フラメンコ音楽独特のリズムをステップで見事に表現しました。ピタっと音とステップが合っていたのは本当に素晴らしかったです。

 これからが楽しみなのはアメリカのシブタニ兄妹。両親が音楽家で、音楽と動きが合っていて表現も素晴らしいです。踊っている時の足の置き方、なかでもフリーレッグの置き方がとてもキレイで足をおろした後の流れもいいです。妹・マイアはまだまだ若いのですが、踊っている時の背中のラインに出て来た女性らしい品格はステップにも現れています。最近の流行のツイズルに関しては、速さや移動距離ともに優れています。シブタニ兄妹のトリプルツイズルには注目してください。
 ステップ、ツイズルの上手な女子シングル選手は浅田真央。バンクーバー・オリンピックでも浅田真央だからできるという種類が多く難しいステップを披露した彼女。タラソワコーチの期待にこたえられたのは能力の高い彼女だからこそです。その複雑なステップの間に、いくつもツイズルを盛り込んでいました。氷の上を移動しながらくるくると軽やかに回る姿は、ステップの表現をより深く印象的にしています。

(解説:藤森 美恵子)

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第12回 女子スピン編

2011年03月07日

軸がブレることなく速い回転でキレのあるスピンは、ジャンジにも観客にも強い印象を残すことのできる技。氷上の表現としてもその美しさが大きなキーポイントで、見どころのひとつです。

 その名が残っているデニス・ビールマンが開発したビールマンスピンに始まり、記憶に新しいところだとジュニア時代に周囲を驚かせたキャロライン・ジャンのパールスピンなど、次々と新しい技が誕生しているスピン。体の柔軟性だけではなく、バランスも問われます。また、音楽に合わせて美しく回転す姿は観客やジャッジの頭や心の中に残像で印象が強く残るため、プログラムの見せどころやフィナーレなどに効果的に使われます。
 ビールマン以降、最近までは3回転ジャンプにウエイトがあり、スピンがとても印象的な選手はあまり出ていなかったように思います。しかし3回転ジャンプを飛ぶのがあたり前になってきた最近では、ライバルと差をつけるためにも技の向上や新しい形の開発など、どんどん面白くなってきているのがスピンです。日本でスピンといえば、もちろん中野由加里です。柔軟性を生かした高速かつ安定した彼女のドーナッツスピンは、プラス3を出してもいいスピンとしてISUの教則ビデオに登場している程です。

 今シーズン、スピンがいいのはアリッサ・シズニー全米選手権でフリーのラストに見せた2連続のスピンは本当に素晴らしかったです。日本勢では、今はどの選手もスタイルがよく技術も高いので皆それぞれの表現でスピンで見せてくれていますが、なかでも浅田真央のスピンは期待していいでしょう。佐藤信夫コーチのもと練習を積んで、より高速でキレのあるスピンを見せてくれるはずです。


(解説:藤森 美恵子)

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