カルチャー | Culture

Nerds,Be Ambitious!

2007年08月13日

第九回:ラプターくん、君は何者だ?(後編)

小説が出版されたのは1990年。映画化が93年。そして続編の小説は95年で、その映画化は97年。……というのはもちろん、『ジュラシック・パーク』シリーズのことである。ついでに言うと、原作なしのオリジナル・ストーリーで展開した第3作の公開は2001年だった。

このシリーズこそ1990年代の10年間を通じて恐竜ブーム、古生物学熱を盛り上げた最大の貢献者と断言してしまっていいだろう。

ヴェロキラプトル

小ぶりな体に大きな手、跳ね上が
った足の爪がトレードマーク!
これがヴェロキラプトルです。

90 年公開の第一弾映画を思い出してみよう。サム・ニールが考古学者役で出演しており、その埃っぽい風情が『オーメン3』も『ケインとアベル』も遠くなりにけりという感慨を抱かせた……が、それはともかく、ここでは画面を彩った恐竜たちに注目したい。ティラノサウルス、トリケラトプス、ガリミムス、ブラキオサウルス等々が登場するわけだが、誰よりも目立っていたのがヴェロキラプトル(Velociraptor)。比較的小さな体格を利して研究所内にまで入り込み、主人公たちを追い詰めるスリックなヤツだ。その名は、ラテン語(のはずだ)で「すばしっこい盗人」を意味する。

そういえば、物理の授業では速度を「v」で表していた。物理学では「速度(velocity)」と「速さ(speed)」は別の概念だが、ラテン語のvelociは要するに「速い」ということだ。後半のraptorが「盗人」を意味しているわけだな。

同じように「ラプトル」が付く恐竜として、オヴィラプトル(Oviraptor)という種類がいる。これは「卵盗人」という意味だ。卵に覆いかぶさるような形で化石が発見されたことにより命名された……のだが、これがとんだ濡れ衣で、実はその個体こそが当の卵を産んだ母親であり、おそらくは自分の卵を抱いて温めていたであろうことが判明。とはいえ、いったん決まった学名は変えられない。「イグアナ型の巨大爬虫類だろう」という決めつけから名付けられたイグアノドンだって、イグアナとは似ても似つかない形状であることが判明しても、それでもやっぱりイグアノドン。同様に、えん罪が発覚しても、「卵盗人」と呼ばれ続けるオヴィラプトルなのでした。

この「ラプトル」を英語読みしたのが「ラプター」であることは、読者諸兄もお察しかと思う。英語読みしたがゆえに、猛禽類を指す単語とダブってしまうわけだが……しかし、「鳥類は恐竜の直系の子孫である」という説が支配的になり、「鳥類とはすなわち恐竜である」「恐竜イコール鳥類なのだ」という言い方まである昨今では、結果的に正しいダブリと言えるだろう。

特に、小さくて賢く、敏捷な恐竜――まさにヴェロキラプトルのような――が、おそらくは鳥の先祖なのだから。

トロント ラプターズ

我らがトロント・ラプターズが設立されたのは1995年。映画『ジュラシック・パーク』第一弾の衝撃も冷めやらぬまま、小説の第二弾が刊行された年である。ということは、ラプターズの名も、ヴェロキラプトルに由来するものに違いない。マスコットの小型恐竜くんの俊敏そうな佇まいが、雄弁に物語っているではないか。時流を見据えた、軽薄にして鋭いネーミング、と言わせてもらおう。また、実は知られざる(?)化石大国でもあるカナダとしては、その大国ぶりを世界に訴える絶好のチャンスだったのかも知れない。そもそも、前回紹介した「バージェス動物群」も、カナダはブリティッシュコロンビア州で発見されたもの。古生物学ブームの発端も、やっぱりカナダにあったわけだ。

ただし! 肝心のヴェロキラプトルの化石は、モンゴルを中心とした中央アジアで出土しており、トロント近郊はもとよりカナダ国内では全く見つかっていないのだ。つまり、他人のふんどしで相撲を取ってるってことか?

「化石大国」のプライドがあるのならなおさら、自国で発見されてる種類、たとえばアルバータ州の名をそのまま織り込んだアルバートサウルスに引っ掛けた名前にすべきところ。だが、いかんせんモノはバスケットボールである。体重2トンのアルバートくんでは、とてもとても。その点、ヴェロキラプトルは映画『ジュラシック・パーク』で描写されたように、恐竜全種の中でも、特に敏捷とされる種類。これを採用せずして、何を採用するというのだ?


ここ数年は、定着しつつも沈静化しているように見える日本での恐竜熱(昆虫に押されているか?)。しかし! ここで予言しておこう。来年は再び、恐竜ブームが爆発するはずだ、と。なぜなら、『ジュラシック・パーク4』が2008年に公開予定なのだ!

先述のサム・ニールが出る出ないとか、『1』と『3』で相棒の女性学者を演じたローラ・ダーン(ベン・ハーパーの妻)が出るとか出ないとか……2007年半ばを過ぎてもさまざまな情報が飛び交っているあたり、ホンマに間に合うんかいなと思ってしまうわけだが。

なにはともあれ、予定どおりの2008年公開と、それに伴うラプターズの活躍を祈りましょうか。

イグアノドン

19世紀に描かれたイグア
ノドン。今とは復元姿勢が
違うが、ナイスな絵である。

ミクロラプトル

ヴェロキラプトルの近縁種ミクロラプトルはこんな
だったかも……という復元模型。ほとんど鳥です。
(Photo by Dinoguy2)

Icefield

あまり関係ありません
が、ブリティッシュコ
ロンビア産のミネラル
ウォーター、Icefield。
本当に美味!
鉱水なんてものに興味
のないワシも、この風
味には惚れました。

アルバートサウルス

ティラノサウルスの祖先かも。アルバートサウ
ルス。(Photo by Mike O'Neil)




丸屋九兵衛

Profile

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集部勤務

別名=「痴の巨人」。立場を利用し、自分が携わる雑誌『bmr』にて視点の定まらない連載「雑学王」を9年以上も続けている。早川書房『SFマガジン』でも、スター・トレック連載「Trek Daddy」続行中。文中で触れたとおり、2月には初の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』を出したが絶不評中……。

ページの先頭へ戻る