カルチャー | Culture

Nerds,Be Ambitious!

2007年07月13日

第八回:ラプターくん、君は何者だ?(前編)

F-22ラプター

(写真1)
これがF-22ラプター。
ステルス機能が物凄く、「目には見えるがレーダ
ーには映らない」とも言われる。だが、アホみたい
に高い! しかも、デザインがドンくさい!
その点、ロシアの戦闘機はかっこいいぞ~。
英・独・伊・西が共同開発したユーロファイターも
いいけどね。
(Photo by U.S. Air Force)

7月上旬。日本では8月4日からの公開だが、アメリカでは既に映画『トランスフォーマー』が封切られている。本国公開日が7月4日に設定されたあたりは、非常にアメリカらしい展開だが、しかしトランスフォーマーの起源はここ日本、タカラのオモチャにあることも忘れてもらいたくないものだ。

なんにしても、時代はトランスフォーマーであります。今回の映画で面白いのは、悪の軍団のナンバー2であるスタースクリームの、ロボットに変形する前、世を忍ぶ仮の姿。かつての定番だったF-15イーグルではなく、F-22ラプター(写真1)なのだ。

F-22ラプターといえば、航空自衛隊への導入案をめぐる悶着でも知られる、現在世界最強の米空軍戦闘機である。それが「悪の軍団」の構成員とは、これ如何に?……と思われる方もいるだろうが、トランスフォーマーでは、「正義の味方=乗用車とか VS 悪の軍団=戦闘機とか戦車とか」という図式が基本となっているのだ。


トロント ラプターズ
ところで、「ラプター」とはなんだろう?

Raptorを英和辞典で調べると、「猛禽類」「食肉鳥」などと書かれている。あるいは、同義語としてbird of preyなどと書かれている例もあるかも知れない。このbird of prey、スター・トレックのファンならピクリと反応してしまうタームだが、とにかく要するに鳥である。F-22は飛行機だから、そういう愛称をつけるセンスには納得が行こうというものだ。

しかし! 我らがトロント・ラプターズの場合……そのマスコットはどう見ても恐竜である。全くもって、鳥には見えない。なぜこんなことになるのだ?


街を行く小学生たちの会話を聞いていて痛感するのは、生物学のフィールドにおける彼らの博識さである。

特に、古生物学において。我々にとっては「始祖鳥」だったものを、通りがかりの小学校低学年男児が事も無げに「アルケオプテリクス」と呼んだ時には、本当に驚いた。「後生、恐るべし」とはこのことだなあ。いつの世でも、賢い子供はアホな大人の数歩先を行っているのだ。だから、原始人が鳥の話をしていたら翼竜(それは全く鳥ではない。恐竜でもない)が出てくるCMは、きょうびの賢い子供たちには嘲笑されているのではないかと思う。(写真2・3)

ガメラ 大怪獣空中決戦

(写真4)
ガメラ 大怪獣空中決戦
史上初めて「日本SF大賞」を
受賞した映画である次作『ガ
メラ2 レギオン襲来』には適わ
ないが、それでも傑作! ルー
ン文字が出てきたり、そのスジ
の大人へのツカミもバッチリ。
この傾向は、次作で水野美紀
の本棚に置いてある『ゲド戦記
』へと引き継がれる。

子供たちの古生物コンシャスネスを見ていると、こんなことも夢想する。もし平成ガメラ三部作が、1995年からではなく、10年遅れて始まっていたら……第一作『大怪獣空中決戦』でギャオス(これまた翼竜タイプの生物だ)が「鳥」と誤認される展開もなかったかも知れない。蛍雪次郎の「しかも鳥は人ば襲う!」の名セリフは捨てがたいのだが。(写真4)

思えば、こんにちの小学生たちが生まれる以前の90年代初頭。その頃に、何回めかの恐竜ブームがあった。当時のワシが買っていたのは、確か『週刊恐竜』。そう、読んで字の如く週刊誌なのだ! そして、この雑誌は非常にクレヴァーな付録戦略をとっていた。

毎号、恐竜の骨格模型が付いてきたのだが……たとえばティラノサウルスとしよう。第一週は頭骨のみ、第二週は肋骨等の上半身、という具合で、第四週でティラノサウルスの模型は完成するのだが、しかし! その号には、トリケラトプスの頭骨もついているのだ!こうして次の恐竜模型の一部を手に入れてしまった読者はやめるにやめられず、ズルズルと買い続けるのだった……。


恐竜時代は、おおざっぱにいうと2億年前~6500万年前だ。それよりだいぶ前、約5億年前の「カンブリア紀」に生きていた、通称「バージェス動物群」という生物たちがいる。

その生物たちは……なんと表現したらいいだろう。皆さんがそれらを全く知らないという前提で書いておくと、とてつもなく大胆なデザインの怪獣画というか、無茶なかけ合わせ動物実験というか……とにかく、普通の感覚で見れば異星生物である。しかし、その多くは子供たちと(物好きな)大人たちをとりこにする、不思議な魅力を備えていた。

特に出色だったのは、海中をゆっくり遊泳しながら他の生物を捕食していたという、海の王者アノマロカリス。非常にエイリアン(異質)でありながら、なんとなくユーモラスで親しみのある外見がナイスである。(写真5)

これらの生物を全世界に知らしめたのは、古生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドが1989年に書いた『ワンダフル・ライフ』(写真6)という本だ。邦訳は93年まで待たねばならないが、英語圏が先導する形での(たぶん)世界的な古生物学熱は、この89年から始まったと言えるのではないか。実際、件のアノマロカリスは模型化(プラモデルだったかソフトビニール製だったか……)までされた。

そんな古生物ブームの中、1990年にはあの小説が出版され、93年には映画化されるわけだ……(続く)。

始祖鳥

(写真2)
始祖鳥ことArchaeopteryx。
「始祖鳥」というくらいで元祖・鳥なのだが、
現在の鳥類の直接の祖先かどうかは不明。

ケツァルコアトルス

(写真3)
翼幅約12m、地球史上最大の
飛行生物とされる翼竜ケツァ
ルコアトルス。アステカの有
羽蛇神ケツァルコアトルから
とったネーミングも最高!
(Illustration by LeCire)

アノマロカリス

(写真5)
三葉虫を狙うアノマロカリスの図。本文では
「海の王者」と書きましたが、当時の地上に
はまだ生物などいません。つまり、海の王者
=全世界の覇王なのだ!

ワンダフル・ライフ

(写真6)
ワンダフル・ライフ
表紙に描かれたヘンな
のが、バージェス動物
群の一部だ!




丸屋九兵衛

Profile

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集部勤務

別名=「痴の巨人」。立場を利用し、自分が携わる雑誌『bmr』にて視点の定まらない連載「雑学王」を9年以上も続けている。早川書房『SFマガジン』でも、スター・トレック連載「Trek Daddy」続行中。文中で触れたとおり、2月には初の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』を出したが絶不評中……。

ページの先頭へ戻る