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Nerds,Be Ambitious!

2007年06月11日

第七回:スズメバチ物語(後編)

オオスズメバチ

これがオオスズメバチだ!
(写真:from『自然原理主義』by田中利秋)

ワシも今回調べるまで知らなかったのだが、スズメバチは非常に奇妙な生物である。

スズメバチが攻撃的である(というのは、人間の基準による恣意的な判断だが)ことは、特に日本人はよく知っている。他の昆虫を襲うことや、獲物の死骸を丸めて肉ダンゴを作ることも、わりと知られているかもしれない。だが、この肉ダンゴ、作った当人(スズメバチの成虫)が食べるわけではないのだ。

実は、肉ダンゴはあくまでも幼虫用のエサなのである。では、成虫は何を食べているのか?

ここからが凄いのだが……実は、スズメバチの成虫は幼虫が分泌する液体をメイン栄養源としている。いわば、子供が親をミルクで養っているのだ!

まあ、成虫のほとんどを占める働きバチ(メスだけ)は、幼虫と同じ女王バチから生まれているわけだから、正確には「親」ではなく「姉」なのだが。それにしても、異常な生物やな~。

なにはともあれ。スズメバチの成虫は、その攻撃性に似合わず、非肉食性だ。だから、スズメバチの成虫が我々人間を襲う場合も、「食べてやろう」と思って攻撃してくるわけではない。ただ、テリトリーを脅かす邪魔者を排除せん!とするのみ、である。もっとも、哺乳類などの脊椎動物の死体をも幼虫用の肉ダンゴの材料として活用するらしいから、油断はできないのだが……。


みつばちマーヤの冒険

1912年発表のドイツ小説。
1975年から日本でTVアニメ化された。
擬人化はされているものの、自然界の
厳しさについて触れる展開もあり。
スズメバチもバッチリ登場する

Y'all remember 『みつばちマーヤの冒険』?ワシはもちろん覚えてるぜ。というわけで、スズメバチの最大の被害者としてイメージされるのは、やはりミツバチであろう。だが、ミツバチにはスズメバチへの対抗手段がある。その戦術の呼称は定まっていないが、ワシは敢えて「熱殺」と命名しよう(威張るほどのネーミングではない)。これは、致死温度の差を利用した、非常にクレヴァーな戦術だ。つまり、スズメバチはミツバチよりも熱に弱く、ミツバチが耐えられる温度でも死んでしまうのである。だから、自分たちの巣の近くでスズメバチを発見したミツバチは大挙してスズメバチに群がり、ブンブンとムダに羽ばたきすることで(?)体温を上げる。中心部のスズメバチをミツバチの大群が包み込む形の三次元的おしくらまんじゅうを想像してほしい。20分ほど経つと、蒸し殺されたスズメバチの出来上がり!となるそうで、「三本の矢」の逸話を思わせる団結力の強さに感じ入るもよし、侵略者に対する勇猛果敢な逆襲に血をたぎらせるもよし、蒸されちゃったスズメバチにユーモラスさの混じった哀感を覚えるもよし……それにしても、20分もブンブン羽ばたくとは、ご苦労さまでございます。


しかし、天敵との戦いは生存競争の一部でしかない。むしろ、同じような生態的地位を占めるライヴァル的他種――たとえて言うなら同業他社――との見えない戦いにこそ、「適者生存」の本質がある。

ここからは、しばしミツバチを主役に話を進めよう。日本におけるオリジナル・ミツバチといえば、もちろんニホンミツバチ。だが、19世紀後半には別種のセイヨウミツバチが導入された。なぜか?ハチミツの生産量(正確には採集量だが)がニホンミツバチよりも多いから。いわゆる養蜂業、つまりハチミツ産業のために輸入されたわけだ。

問題は、家畜やペットとして導入された生物も、必ず一部は飼い主からの脱走に成功してしまう、ということにある。そして、セイヨウミツバチの場合も例外ではなかった。やっぱり脱走して野生化し、ニホンミツバチのライヴァル勢力となったのだ。さらに悪いことに、セイヨウミツバチはニホンミツバチよりも繁殖力が強い。ということで、アメリカやオーストラリアなどで繰り返された侵略的外来種による固有種絶滅の危機か!と思われたのだが……

セイヨウミツバチ

これはセイヨウミツバチ
(写真:http://www.pdphoto.org/)

そうはならなかった。

というのも、セイヨウミツバチは、例の「熱殺」という戦術を知らないようなのだ(そもそも致死温度が低いために不可能、という説もあり)。そのため、スズメバチに襲われるとひとまりもない。おかげで、どこかでセイヨウミツバチが逃げ出して野生化するも、スズメバチに虐殺され、巣別れして新天地を求めるも、スズメバチに根絶やしにされ……という事態が毎年繰り返されているらしい。

だから、ニホンミツバチにとってのスズメバチとは、天敵であると同時に擁護者でもあるのだなあ。


では、なぜセイヨウミツバチはスズメバチに対抗する手段を持たないのか。単純なことで、彼らの故郷には日本産のオオスズメバチのように凶悪で攻撃的な敵は存在しないということなのだ。

さて、英語でホーネットといえば、基本的にはEuropian Hornet(学名=Vespa crabro)のことだ。和名はモンスズメバチという。日本からヨーロッパまでに広く分布し、白人入植者によってアメリカ大陸にも持ち込まれたモンスズメバチこそ、セイヨウミツバチの故郷における「スズメバチ」である。

しかし、このモンスズメバチ、ミツバチ相手の攻撃なぞほとんどしないそうなのだ。だからこそ、生息地域が重なるセイヨウスズメバチも「熱殺」メソッドを生み出す必要に迫られなかったということだろう。それどころかモンスズメバチは、針の殺傷力も弱く、性格もいたってジェントルだという。

ここでやっと本題に戻るわけだが……きっとこのあたりに、欧米人の「スズメバチ好き」の秘密があるのではないか。

ホーネッツ
ちょっと危険(そりゃもちろんスズメバチですから)で、でも致命的ではないという、この絶妙なサジ加減。だからこそ、チーム名に採用されるのだろう。いくら獰猛なイメージが要求されるといっても、日本のオオスズメバチみたいに年間数十人規模の死者が出ていたら、社会的責任も少なからずあるプロ球団としてはネーミングには採用しづらいはずだ。

つまりは、スズメバチ自体の性格の差が、向こうとこちらでのスズメバチ観の違いを生み出しているのである。

……と思っていたら、Jリーグ・アビスパ福岡の「アビスパ」とはスペイン語でスズメバチの意味ですと?! ワシのセオリーが崩れてしまうではないか~!

丸屋九兵衛

Profile

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集部勤務

別名=「痴の巨人」。立場を利用し、自分が携わる雑誌『bmr』にて視点の定まらない連載「雑学王」を9年以上も続けている。早川書房『SFマガジン』でも、スター・トレック連載「Trek Daddy」続行中。文中で触れたとおり、2月には初の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』を出したが絶不評中……。

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