これがオオスズメバチだ!
(写真:from『自然原理主義』by田中利秋)
スズメバチが攻撃的である(というのは、人間の基準による恣意的な判断だが)ことは、特に日本人はよく知っている。他の昆虫を襲うことや、獲物の死骸を丸めて肉ダンゴを作ることも、わりと知られているかもしれない。だが、この肉ダンゴ、作った当人(スズメバチの成虫)が食べるわけではないのだ。
実は、肉ダンゴはあくまでも幼虫用のエサなのである。では、成虫は何を食べているのか?
ここからが凄いのだが……実は、スズメバチの成虫は幼虫が分泌する液体をメイン栄養源としている。いわば、子供が親をミルクで養っているのだ!
まあ、成虫のほとんどを占める働きバチ(メスだけ)は、幼虫と同じ女王バチから生まれているわけだから、正確には「親」ではなく「姉」なのだが。それにしても、異常な生物やな~。
なにはともあれ。スズメバチの成虫は、その攻撃性に似合わず、非肉食性だ。だから、スズメバチの成虫が我々人間を襲う場合も、「食べてやろう」と思って攻撃してくるわけではない。ただ、テリトリーを脅かす邪魔者を排除せん!とするのみ、である。もっとも、哺乳類などの脊椎動物の死体をも幼虫用の肉ダンゴの材料として活用するらしいから、油断はできないのだが……。
1912年発表のドイツ小説。
1975年から日本でTVアニメ化された。
擬人化はされているものの、自然界の
厳しさについて触れる展開もあり。
スズメバチもバッチリ登場する
しかし、天敵との戦いは生存競争の一部でしかない。むしろ、同じような生態的地位を占めるライヴァル的他種――たとえて言うなら同業他社――との見えない戦いにこそ、「適者生存」の本質がある。
ここからは、しばしミツバチを主役に話を進めよう。日本におけるオリジナル・ミツバチといえば、もちろんニホンミツバチ。だが、19世紀後半には別種のセイヨウミツバチが導入された。なぜか?ハチミツの生産量(正確には採集量だが)がニホンミツバチよりも多いから。いわゆる養蜂業、つまりハチミツ産業のために輸入されたわけだ。
問題は、家畜やペットとして導入された生物も、必ず一部は飼い主からの脱走に成功してしまう、ということにある。そして、セイヨウミツバチの場合も例外ではなかった。やっぱり脱走して野生化し、ニホンミツバチのライヴァル勢力となったのだ。さらに悪いことに、セイヨウミツバチはニホンミツバチよりも繁殖力が強い。ということで、アメリカやオーストラリアなどで繰り返された侵略的外来種による固有種絶滅の危機か!と思われたのだが……
これはセイヨウミツバチ
(写真:http://www.pdphoto.org/)
というのも、セイヨウミツバチは、例の「熱殺」という戦術を知らないようなのだ(そもそも致死温度が低いために不可能、という説もあり)。そのため、スズメバチに襲われるとひとまりもない。おかげで、どこかでセイヨウミツバチが逃げ出して野生化するも、スズメバチに虐殺され、巣別れして新天地を求めるも、スズメバチに根絶やしにされ……という事態が毎年繰り返されているらしい。
だから、ニホンミツバチにとってのスズメバチとは、天敵であると同時に擁護者でもあるのだなあ。
では、なぜセイヨウミツバチはスズメバチに対抗する手段を持たないのか。単純なことで、彼らの故郷には日本産のオオスズメバチのように凶悪で攻撃的な敵は存在しないということなのだ。
さて、英語でホーネットといえば、基本的にはEuropian Hornet(学名=Vespa crabro)のことだ。和名はモンスズメバチという。日本からヨーロッパまでに広く分布し、白人入植者によってアメリカ大陸にも持ち込まれたモンスズメバチこそ、セイヨウミツバチの故郷における「スズメバチ」である。
しかし、このモンスズメバチ、ミツバチ相手の攻撃なぞほとんどしないそうなのだ。だからこそ、生息地域が重なるセイヨウスズメバチも「熱殺」メソッドを生み出す必要に迫られなかったということだろう。それどころかモンスズメバチは、針の殺傷力も弱く、性格もいたってジェントルだという。
ここでやっと本題に戻るわけだが……きっとこのあたりに、欧米人の「スズメバチ好き」の秘密があるのではないか。
つまりは、スズメバチ自体の性格の差が、向こうとこちらでのスズメバチ観の違いを生み出しているのである。
……と思っていたら、Jリーグ・アビスパ福岡の「アビスパ」とはスペイン語でスズメバチの意味ですと?! ワシのセオリーが崩れてしまうではないか~!
丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集部勤務
別名=「痴の巨人」。立場を利用し、自分が携わる雑誌『bmr』にて視点の定まらない連載「雑学王」を9年以上も続けている。早川書房『SFマガジン』でも、スター・トレック連載「Trek Daddy」続行中。文中で触れたとおり、2月には初の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』を出したが絶不評中……。