(前回から続く)
「ワシントン・ウィザーズ」という名称の歴史は、まだわずか10年。そういえば、ついこないだまでブレッツだったもんな。とはいえ、チームの歴史はけっこう長く、元々はシカゴ・パッカーズ(Packers)という名称だった。そのスタートは、1961-62シーズンのこと。
……なのだが翌年、つまり1962-63シーズンには早くもシカゴ・ゼファーズ(Zephyrs)と改名。この「ゼファー」とは、ギリシア神話に登場する「西風の神」の名だ。ということで、えらく神々しいネーミングかと思ったのだが、現代では「そよ風」とか「微風」という意味で使われることのほうが多いそうな。ということは、真意は「シカゴ・そよ風ズ」?!めっちゃ弱そうやな~。とはいえ、この名称、「ウィンディ・シティ」と呼ばれるくらい寒風吹きすさぶことで有名なシカゴだからこそ意味がある、一種のシャレだったのかも知れん。
だが、そのシャレに安住する間もなく。さらに翌1963-64シーズンには中西部のシカゴから、東海岸であり一応南部にも含まれるメリーランド州はボルティモアへ本拠地を移転した。で、これを機会に、例の頭韻セオリーにのっとってボルティモア・ブレッツと名乗るようになったわけだ。
この「ボルティモア・ブレッツ」時代は計10シーズン、1972-73シーズンまで続く。だが、1973-74シーズンにはまた移転し、キャピタル・ブレッツと改名する。ん?キャピタルとは「首都」の意味。だが、ブレッツはメリーランド州内でボルティモア市からプリンスジョージ郡ランドオーヴァーに引っ越したに過ぎない。それなのに、なんで「首都」を名乗る?
ここで、メリーランド州の地図を見てくれたまえ(鮮明に見えるといいのだが……)。
モンゴメリー郡とプリンスジョージ郡が共に、妙に四角くエグられているのがわかるだろう。これはメリーランド州地図なので表示されていないが、その妙な四角の部分、それこそがアメリカ合衆国の首都、ワシントンDCなのだ。つまりDCは、メリーランドに食い込んだ間借り地域みたいなものなんですねえ、首都のくせに……。とにかく、その隣のプリンスジョージ郡ランドオーヴァーまで越してきたら、とりあえず「首都」と名乗りたくもなるわな。
ランドオーヴァーは、NFLのワシントン・レッドスキンズ(故ブルーザー・ブロディが在籍していたとか)の本拠地でもある。この先達、レッドスキンズに勇気づけられたか、翌1974-75シーズンにはブレッツも(移転もしないくせに)「ワシントン・ブレッツ」と改名。この名称が、ウィザーズと改める1997 -98シーズンまで、20年以上にわたり使われ続けることになるわけだ。
しかし!ボルティモア移転当時に勢いで付けた「ブレッツ」がマズかった。
ブレッツ(Bullets)、つまり銃弾複数形。もちろん「シカゴ・そよ風ズ」の何倍も強そうではあるが、いかんせん銃弾だ。つまり、暴力的なのである。ボルティモア・ブレッツ時代のロゴでは、ご丁寧に銃弾が飛んでたりしたし……。
これが、平和な郊外都市であればシャレで済んでいたかも知れない。しかし、メリーランドあたりは、実際の環境もデンジャラスなのだ。犯罪発生率を反映する「アメリカの危険な都市」ランキング(無差別級)を見ると、ボルティモアは6位、ワシントンDCは13位。人口規模別に分類したものだと、両都市とも「50万以上級」部門に入り、ボルティモアは2位、ワシントンDCは3位へと躍進(?)する。50万以上の人口を抱える都市でこの二つを上回る危険度を誇るのはデトロイトだけだ。
どれもこれも著しく必然性を欠くなか、ウィザーズに決まった理由は……当然、頭韻でしょう!チーム名はW×W、おまけにロゴの魔法使いのオッチャンのボディまでWで、Wづくしである。
ところで。前回ちょっと触れた元祖RPG(ロールプレイングゲーム)こと「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は、Wizards of the Coastなる会社が保有するブランドだ。このWizards of the Coastも「所在地=ワシントン」とあったので、「おお、“ウィザーズ”の必然性がここにも!」と思ったのだが……よく見たら、ワシントンはワシントンでも、西海岸はワシントン州。しかもなぜかロゴは、ロサンゼルス・レイカーズふうの配色なのでありました。
丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』編集部勤務
別名=「痴の巨人」。立場を利用し、自分が携わる雑誌『bmr』にて視点の定まらない連載「雑学王」を9年以上も続けている。早川書房『SFマガジン』でも、スター・トレック連載「Trek Daddy」続行中。文中で触れたとおり、2月には初の著書『音楽誌が書かないゴシップ無法痴態』を出したが絶不評中……。